第10章 超えるべき壁たち
この屋敷に来てさらに数日がたった。驚くことに、ここは煉獄さんの家ではなかった。危ない危ない…。私の疑いを晴らすための家と早くにネタバレをしてくれていなかったら、胡蝶さんを内縁の妻設定にしていたところだったし…。
「それはさすがに心外ですねぇ」
「胡蝶さん!? け、気配なく現れないで下さい!!」
クスクスと可愛らしい笑い声をたてながら胡蝶さんはお連れさんと共に現れる。……あれ?このお連れさん……どこかで………
「二人ともはじめましてではないでしょう? 幸子さん、こちら私の継子になります」
「……………………」
胡蝶さんと同じ蝶の髪飾りを付けた少女がニコッと私に微笑む。……確か……
「最終選別で一緒だった人ですよね。自己紹介が遅れてしまいすみません。私は竈門幸子と言います」
私も微笑み返し手を差し出した。最終選別で女の子は私とこの子だけだった。まさか、胡蝶さんの継子だと思わなかったが…仲良く出来たら嬉しいな。
「…………………」
………えっと……。差し出した手を見るわけでもなくニコニコと私に笑いかけるだけの少女。胡蝶さんがため息をこぼす。不意に少女が銅貨を取り出し、それを器用に上に投げ綺麗に手の甲に落とす。銅貨は表だった。
「……………栗花落カナヲ」
「そっか…栗花落さん!! よろしくお願いします!!」
私はもう図々しいと鬱陶しがられる覚悟で、彼女の手を無理やり取った。彼女は怪訝そうな顔をしたが、払い除けるということはしなかった。何度か上下に振ったところで、胡蝶さんが笑みを浮かべているのに気づく。
「カナヲ。次の任務までここで待機してて頂戴。幸子さん、カナヲを頼みましたよ」
「えっ!?」
私に視線を向けると、一瞬で姿を消す胡蝶さん。
「………………」
「………………」
栗花落さんはぼんやりと外を見ており、私はどうしようと首を捻った。そして、目の端に見えたものを咄嗟に取り出した。
「つ、栗花落さん!! これやりませんか!?」