第16章 私に向けられていた刺客と柱たち
「……幸子さん。少し苦しいです」
胡蝶さんの声にハッと私は彼女から体を離した。今の私の力では彼女を傷つけてしまうと気づいたからだ。私の行動で彼女を傷つけてしまってはいないだろうか…不安が過ぎる。
「……ありがとうございます」
だが、彼女は私にそう言った。全く上手に笑えていないその顔は、普段の彼女とは違い…年相応の表情が宿っている気がした。
「…私もまだまだですね…。感情の制御ができないようでは、半人前です」
彼女の言葉にどう返せばいいかなやんでいると、そっと冷たい手が私の頭を撫でた。
「やはり貴方は姉に似ています。だからきっと…貴方も無茶をしてしまうのでしょうね。鬼舞辻の側近の鬼に一人で挑んでしまうような……そんな無茶を…」
その冷たい手がゆっくりと私の頬を触る。視線を上げると、彼女の瞳が鋭く光っているのに気づく。あまりの鈍い光に…私の体は震えた。
「……頭から血を被ったような鬼。にこにこと屈託なく笑い、穏やかに優しく喋る。その鬼の使う武器は…鋭い対の扇」
まるで吐き捨てるように言葉を紡ぎ、怒りが込められた瞳で彼女は最後に問うた。
「私の姉を殺した鬼に心当たりがありますか?」
彼女のもう片方の手が、掴んでいた私の腕の皮膚に食い込む。思わず顔をしかめるが、彼女は私が答えないと離す気はないようだった。胡蝶さんの言葉で、不意に出てきた男の言葉が頭を過る。
「あぁ…可哀想に」
まるで口癖のように…何度も呟き涙を流す男。その男は作り物の笑顔で言葉を吐き、毎回血の匂いをさせていた。そして、彼が身につけていたのは対の扇だった。…おそらく間違いないだろう…私は口を開く。