第15章 蝶屋敷
蝶屋敷…それは柱に与えられる館を、負傷した隊士の治療所として開放している医療所のような場所。そこには、今回那田蜘蛛山に入山した隊員たちが大勢運び込まれている。そして、最近…その隊員たちの間では、とある噂に夢中になっている者もいた。
「知っていますか? "かぐやの君"の噂…」
"かぐやの君"…。それは、大変美しい少女の姿をした…まるで月の化身のような姿だと言われている。月の光のような銀色の髪をしており、繭に閉じ込められた隊員たちを次々に救い出していく様子は…まるで女神のようだと言われおり…
「ま…待ってください!! 」
私は思わず話の途中だったが、制止をかけた。"かぐやの君"はともかく…銀の髪に繭に閉じ込められた隊員たちを救ったというのは見覚えがあったからだ。
「ええ、そうです。あなたの想像の通り…"かぐやの君"は幸子さんのことですね」
面白いものを見たかのようにクスクスと笑う胡蝶さんに私は恥ずかしさで頭を抱えた。
「ここ数日、あなたへの面会希望者が多くてですね。まだ体調が戻っていないからと、お断りをしていたのですが…こっそり会おうとなさっていた隊員が数名いたようで」
つまり、現行犯で捕まえた隊員からその噂を聞き出した…と。私は笑顔の裏に隠された胡蝶さんの怒りについすみません…と謝った。
「いえいえ。むしろ、私よりもアオイの方が困っているようでしてね。私の場合はすんなり諦めてくださるようですが、アオイの場合は諦めきれず食い下がってくる隊員も少なくはないらしくて」
胡蝶さんの言葉に私はアオイさんにも後できちんと謝ろうと心に決めた。しかし、アオイさんは私とまともに話してくれるだろうか…ということが頭を過ぎる。
何せ、アオイさんは那田蜘蛛山での下山の際に、私に付いてくれていた隠の人だったのだ。人手が足りなかったらしく無理に頼まれた上、我儘な怪我人のせいで列から離れ…さらにはその我儘な怪我人に置いていかれるという仕打ち。……私は目が覚めた瞬間に、彼女と顔を合わせ本当に申し訳ないという思いでいっぱいだった。すぐにあの時のことを謝ったのだが…
「そうですか」
とそれだけで、後は目も合わせようとしてくれない。私はため息をついた。