第6章 新しい住人-ショウトツ-
ずっと考えてみたけど
やっぱり犯人は分からない
誰がどんな理由で
私を階段から突き落としたの?
それに…私を見て笑ってた
「はぁ…無事に帰れるのかな」
スマホを手にして指紋認証でロックを解除する。料理レシピのアプリや電車の乗り換えアプリなどが入っていた。
「圏外…まぁ…当然だよね」
期待はしてなかったけど何だかショックだ。私は溜息を吐いて鞄を机の横に置き、紅茶を入れる為に部屋を出た。
ホールに行くと──ふと隅のビリヤード台が目に止まった。
「(ここにあるってことは誰かが好きなのかな?今のところ、誰かがやってるところは見たことがないけれど…)」
取り敢えずあの棒を突いて球をどうにかする、というくらいしか全く分からない。
「棒……」
『前にさ、仕事の最中にちょっと暴漢に絡まれたことがあってさ、稀モノとか関係なく、警察と間違われて因縁つけられたんだけど』
『それで殴り合いになって、俺、少し唇を切ってさ』
「そう言えば、隼人も滉も腰に杖を下げてる…。あれって危なくなったらきっと使うんだよね?」
新人のせいなのか、私が女性だからなのか、そういったものはまだ持たされていない。
「…ちょっと、この棒を借りてもいいかな」
私はそれを掴み、周囲を覗う。廊下も鎮まり返り、人の気配はない。
「……よし」
私は深呼吸をして、ゆっくりと構えた。
「…あ、覚えてるかも知れない」
高校の頃、剣道の全国大会で優勝したことがある。前に杙梛さんのお店で剣道が得意と答えた時、私の強さにみんな驚いていた。
「…本来なら成人してる歳なんだよね。何故かこの時代に来たら16歳になってたし。」
私は誰も人がいないのを確かめ──真っ直ぐに振り下ろす。
「そうそう、こんな感じ…」
部活を思い出しながら、何度かそうして棒を振っていたその時。
「何やってんの」
「ひゃあああ!?」
驚いた拍子に、持っていた棒を床に落とす。
「は、隼人…!?」
「さっきのって剣道の動きだよな?確か剣道の全国大会で優勝したんだっけ」
隼人は何も気にしない様子で、落ちた棒を拾い上げて台に戻す。
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