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たとえば君が鳥ならば【ニルアド】

第6章 新しい住人-ショウトツ-



「…おじいさん」



「独りで頑張る事は悪い事じゃない。だが相手を信じてその"頑張り"を分け合うのも大事だよ。支え合う事はとても大切なんじゃ」



「頑張りを分け合う…」



「お嬢さんはこの世界が好きかい?」



「…分かりません。でも大切な人達がいるこの世界を消させたくないと思ってます」



「それでいいんじゃよ」



「え?」



「大切な人達がいる。だからお嬢さんは今此処に存在している。今は窮屈に感じる世界かも知れんが、もう少し肩の力を抜いて生きてみれば、きっとお嬢さんもこの世界を好きになるだろう」



おじい様とは違う、心地良さ。この人もきっと何かしらの孤独を抱えているに違いない。彼は言った、人は誰しも孤独を抱えて生きている、と。なら彼も、この世界でずっと孤独を抱えて生きているのだと思った。



「ゆっくりでいいんだよ。焦らず気長に待ってみなさい。孤独が怖いなら自分から一歩踏み出してみるのも良いかも知れん。娘さんの悩みを解決してくれる日はきっと来る」



「(自分から一歩踏み出す…。)」



おじいさんの言葉はとても温かくて勇気を貰えた。私はベンチから立ち上がり、おじいさんに向き直って深く頭を下げる。



「有難うございます。話を聞いて頂いたおかげで少し心が軽くなりました。もう少し肩の力を抜いて生きてみようと思います」



「それは良かった。娘さんを見た時、どこか無理をして生きてるように思えた。もしまた孤独を感じたら、こうして空を眺めるのも良いかも知れんよ」



「はい、そうしてみます」



優しく微笑んだおじいさんに見送られ、ウエノ公園を立ち去り、アパートに戻ってきた。



部屋に着くと制服を脱ぎ、首に巻いていたストールを取ってベッドに腰掛ける。



「あ…そう言えば鞄の中、何持ってきたんだっけ」



このアパートに越して来る前、正しくはこの世界に来る前に持っていたショルダーバッグだ。色は白で、鳥の羽を象ったアクセサリーが付いている。



おじい様や使用人達に見られたらいけないと思い、一応持って来たのだが…。



「スマホ、手鏡、ハンカチ、手帳、身分証明書、眼鏡、イヤホン、ペンケース、本…」



我ながら偏った物を入れてある…



「まさか突き落とされるなんて…」



あの時のことを思い出す。



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