第6章 新しい住人-ショウトツ-
「可愛らしい娘さんですか?」
「若草色の洋服に白い帽子を被った元気そうな娘さんで、なんでも『帝都新報』の社会部…という所に入社が決まったと言ってとても喜んでおった」
「(新報…新聞記者?)」
「ああいう若い娘さん達が事件に巻き込まれないように祈るばかりだよ。いつか、あの娘さんの書いた記事を読んでみたいものだ」
おじいさんはどこか優しげな目で夜空を見上げた。
「娘さんのご職業は?」
「公務員をしております」
「ほぅ、公務員」
「はい」
「それは娘さんのなりたかった夢かね?」
「!」
改めて言われると困ってしまう。
「いえ…今の仕事は上司の方に勧められて自分の意思で働きました。夢とは…また違いますね」
「そうか…なら娘さんの夢は何じゃ?」
「夢……」
一度は諦めた、パティシエの夢。
母はお菓子作りの天才だった。
まるで魔法みたいにケーキが出来上がって
食べた人達をみんな笑顔にしてしまう
そんな母のようなケーキを作りたかった。
でも…その夢は諦めてしまった。
美味しいと喜んで食べてくれていた友達が
私の前からいなくなってしまったから…。
「何か悩み事でもあるのかね?」
「そう見えますか」
「とても思いつめた顔をしておるよ」
「たまに…孤独を感じる時があるんです」
「……………」
「今の現状に満足しているはずなのに…この世界で生きる事を窮屈だと感じてしまって…誰にも迷惑を掛けずに生きていきたいのに…独りが寂しくて、誰かの存在を求めてしまうんです…」
顔を俯かせ、悲しげに瞳を揺らす。
「ふむ…」
「私は…此処にいていいんでしょうか…?」
不安が心を満たし、膝の上で拳を握る。
「人は誰しも孤独を抱えて生きておる」
「!」
「どんな人間でも決して独りでは生きていけない。そこに誰かの支えがないと孤独と不安に呑み込まれてしまうんだ」
「……………」
おじいさんは月明かりに照らされた花達を眺めながらぽつぽつと話し出す。
「娘さんの場合は…きっと簡単には話せない悩みなんじゃろう?」
「!」
「だからそんなに悲しい瞳をしておる」
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