第6章 新しい住人-ショウトツ-
「いえ何でも!ですが次からは是非!というか絶対に!彼に掃除させるべきだと思いますよ」
「(笑顔がコワイ…。)」
「自分のことは自分でする、責任は全部自分。というのがこのアパートの方針ですから」
「ですが…」
「もちろん、いきなり生活を大きく変えるのは無理だと思います。でも掃除くらいは出来るでしょう?」
「…そうですね。お伝えしてみます」
雉子谷さんは深く頭を下げ、また竹箒を動かし始めた。
今日も何件か書店を回り、笹乞さんの嫌味を聞きつつ、空が夕暮れに染まった頃、結局稀モノは一つも見つからなかった。
仕事を終えた私は、そのままアパートに戻らず、ウエノ公園を散歩していた。
「夜の花って綺麗…」
空と星の明かりが花々を美しく照らす。
「あ……」
その時、ふと目に入ったのは…茜色の花。その色を見るといつも複雑な気分になる。
「やだやだ」
振り払うようにして誰もいないベンチに腰を下ろす。
「帰れるのかな…元の世界に」
急に不安が襲い、声に出した。
「やぁ、娘さん」
「!」
「お隣、よろしいかな」
そこには優しそうなおじいさんがいた。私が頷いて隣を空けると、おじいさんは嬉しそうに腰掛けた。
「今日は風が気持ちいい」
「そうですね」
「夜の公園を散歩するのも良いもんだよ」
「本当にそう思います」
「星の輝きで空が明るいおかげで、花達がいっそう美人に見える。普段は気に留めない花も見違えるように美しく咲いておる」
おじいさんは目の前に咲く花を凝視めながら穏やかな表情で言った。
「娘さんは仕事帰りかな?」
「はい」
「それはご苦労様。だが女性の独り歩きは気を付けた方が良い。最近何かと物騒な事件が起きているからね」
「もしかして妙な本絡みですか?」
「そう。その本が原因で良くない事が起こっておってな、死人が出るまでになってしまった…。娘さん、アンタもお気をつけ」
「ご親切に有難うございます」
初対面の私を心配してくれるおじいさんの心遣いに感謝し、笑みを浮かべた。
「わしはたまにこの公園に空を眺めに来るんじゃが、昨日はとても可愛らしい娘さんがいての」
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