第6章 新しい住人-ショウトツ-
「お嬢さん、湯冷めしないように」
「紫鶴さんこそお風呂でのぼせないように」
「ちゃんと暖かくして寝ろよ」
「隼人も風邪引かないでね」
「おやすみ、立花」
「おやすみなさい」
二人と別れ、私は涼みがてら少し裏庭を散歩することにした。
「(血が、苦手…)」
誰にでも苦手なものはある
私だって、一つや二つ、ある…
「(滉は…血が苦手なんだ…)」
火照った頬が冷たい風に当たり、気持ちがいい。
「(紫鶴さん、凄く驚いてたな。私も過剰に反応し過ぎた…。駄目だな…慣れるって言った癖に…どうしても体が拒否する。)」
ちゃんと…平然を装わないと…
"触られるのが苦手"だって知られたら
変に距離を置かれてしまうかも…
「……………」
『安心しろ、絶対に誰にもバレない』
『これはお前と僕だけの、秘密だ───。』
今でも鮮明に思い出すことがある。
「(歪で最低な約束。私が彼に作らせてしまった最低な秘密。全部…私のせいで…。)」
眉を顰め、辛い表情を浮かべた。
「!?」
見ると、彼──滉が焼却炉の近くに立っていた。
「(星?それとも…月を見てる?)」
彼は微動だにせずに夜空を見上げている。その表情は何処かぼんやりとしていて、声を掛けるのが躊躇われた。
「……あ」
こっそり戻ろうかと思った瞬間、気付かれてしまう。私はぎこちない笑みを浮かべ、歩み寄った。
「こ、今晩は。綺麗な星空だね」
「そうだな」
「あ、の…」
「……………」
何か喋りたいのに良い話題が浮かばない。
滉はじっと、私を見ている。彼は元から、少しぶっきらぼうな喋り方をするところがある。その言葉だけでは彼の感情は読めなかった。
「わ、私も星が好きで!」
「そうなんだ」
「流れ星とか見たこと、ある?」
「ない。それじゃあ」
彼は振り返りもせず、あっという間にアパートの中に消えた。
「…もしかして嫌われてる?」
それとも星の話題はつまらなかった?
一人でいるところを邪魔されたから?
「……………」
私は自分に何か非があったろうかと、独り立ち尽くして考えてしまう。
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