第6章 新しい住人-ショウトツ-
「(あんなに声を荒らげた隼人は初めて見た…。まぁ鵜飼さんの態度が悪いんだけど。でもこれ以上険悪になるのも困るよね…)」
「今晩は、お風呂上がり?」
「っ────!!?」
静寂に包まれた廊下を歩いていると、突然背後から肩に手を置かれた。その瞬間、ぞわりとした背筋が凍りつく感覚と激しい恐怖感が私を襲う。
「!?」
勢い良く振り返った私の過剰な驚き方に、彼───紫鶴さんも驚いた顔を浮かべている。
「ごめん…驚かせたつもりはなかったんだ」
「し、づる…さん…?」
「そうだよ」
バクバクと激しい心臓の音が聞こえる。温かさを失った指先は冷たくなっていた。その人物が紫鶴さんと知り、私の体から力が抜け、恐怖心がゆっくりと和らいでいく。
「……はぁぁ」
冷や汗が米神を伝い、ホッとしたような安堵の息を盛大に洩らす。
「何かあったのかい?」
「!」
「凄い驚き方だったよ」
「…す、すみません」
心配そうな表情で真剣な眼差しを向ける紫鶴さんに軽く頭を下げる。
「人の気配がしなかったので驚いたんです。それにいきなり背後から手を置かれて口から心臓が飛び出るかと思いましたよ」
「本当にただ驚いただけ?」
「そうですよ。なぜ嘘を吐く必要があるんです?」
へらりと笑って誤魔化した。その下手くそな作り笑いはまだ完全に恐怖感が抜けない為、どこか違和感があるように見えるかも知れない。それでも無理やり笑顔を作った。
「だって君…震えてるじゃないか」
そう指摘した紫鶴さんの表情はいつもと違って真剣味を帯びている。その鋭い視線から逃げるように目を逸らす。
「恥ずかしい話…幽霊かと思ったんです」
「幽霊?」
「私、お化けの類が大の苦手で…。こう静かな場所で気配無く後ろに立たれるのが駄目なんですよね。さっきのも本当に驚いてしまっただけなんです」
「……………」
「ご心配をおかけして申し訳ありませんでした」
「それならいいんだけど…僕の方こそ急に声を掛けてしまって御免よ。まさか君があんなに驚くとは思わなくて。今度からは後ろに立つ前に声を掛けるようにするよ」
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