第6章 新しい住人-ショウトツ-
「……………」
余りのことに普段は温厚な翡翠が眉をひそめたのが分かった。
滉は無言だけれど滲み出る気配は既に不穏だ。ツグミちゃんに至っては、言葉を失っているようだ。
「音楽鑑賞は素晴らしい趣味だと思います。が、廊下にまで音が筒抜けです」
「この程度でか?このアパートの壁は相当薄いんだな」
「そうですね。君が住んでいた首相官邸とは大分違うでしょうね。でも今日からここで暮らすのでは?」
「僕の意思じゃない。
勝手にここに連れてこられただけだ」
そう言って───まるでこれ以上の会話を拒むように鵜飼さんはふいと顔を背けた。
「とにかく、蓄音機を一度止めて下さい。
これじゃ声も聞こえにくいでしょう」
「別に貴様の声なんて聞こえなくても何ら問題はない」
「!?」
「な……っ」
「………………」
ツグミちゃんと翡翠は驚いた表情を浮かべ、怪訝しく顔をしかめた滉からも不穏な空気が流れる。
「目障りだ、出て行け」
「…いい加減にしろ!!」
隼人がとうとう業を煮やしたように蓄音機に歩み寄り、勢いよく蓋を閉じた。
「何をする!」
「あのな、お前のそれは誰かと話す時の態度じゃないぞ?」
「話すつもりもない」
「そういうわけにはいかない。…いいか?もう一度言うぞ?ここは昨日までお前が暮らしていた壁の分厚い、広大な、部屋が有り余ってるようなお屋敷とは違うんだよ。郷に入っては郷に従えって諺くらい知ってるだろ、帝都大学法学部の学生なら」
「尊敬出来る人間以外に従う気はない」
「…鵜飼さん!」
「!?」
「ご、ごめんなさい…」
すると彼がツグミちゃんを見て蔑むように目を細めた。
「馴れ馴れしい女だな。
僕に気安く話しかけるな」
「てめぇ!」
「こら───!!」
「!?」
「………!」
「(朱鷺宮さん…!)」
「さっきから後ろで聞いていれば、青臭い小僧どもが何を下らない言い争いをしてるか!!」
「…朱鷺宮さん」
「昌吾君。さっきの態度は良くないですよ」
「………………」
「隼人ももう少し冷静に」
「…済みません」
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