第6章 新しい住人-ショウトツ-
「もう諦めた方がいいぞ」
「(諦めた方が楽か。)」
私は小さく息を零し、隼人を見る。
「分かった。そこまで言うなら敬語はやめる。みんなのこともちゃんと名前で呼ぶ。これでいい…?」
「あぁ、むしろ敬語じゃない方がお前らしくて俺は全然いいと思う」
「有難う」
「ちなみにもう一回、隼人って呼んでくれない?」
「隼人」
「うん、やっぱいいな」
また隼人が嬉しそうに笑う。そして私達はその足で、杙梛さんのお店に向かった。
✤ ✤ ✤
「へー!あのアパートに首相の息子まで住むのか!」
「そうなんだ」
「しかしまぁ、そいつのせいっつーかお陰っつーか、話が大事になってきたな」
「確かにいいような悪いような、というところなんだ。今までは目立って本の影響を受けたのって一般人だけだったから、政府も見て見ぬ振りしてたと思うんだ。でもこれで…」
「反対派とかが騒ぎ出すも困る、だろ?」
隼人は無言で頷いた。
「失業したら、お嬢さんとお姫さんはうちで働きなよ」
「…?フクロウを辞めたらってことでしょうか?」
「意味わからねぇか?つまり政府の腹黒狸どもに、フクロウごと潰されるかもってことだよ」
「(政府…腹黒狸…)」
「お嬢さんはどうだ?」
「何がです」
「うちに来れば俺が毎晩、お嬢さんが寂しくならないように人肌で温めてやるぜ?」
「結構です」
「相変わらずつれねぇなー。本当は照れてるだけだろ?素直になれよ」
「照れてません、しつこいです」
「それとも身を重ねるだけでも…」
「杙梛さん」
「はいはい、この辺でやめますよ」
楽しげに笑う杙梛さんを翡翠が窘める様に軽く睨む。
「まぁでも、鵜飼の息子は大人しそうだから隼人とぶつかる心配はないな」
「あれ、知り合い?」
「いいことを教えてやろう。奴は音楽鑑賞が好きでな、うちの店の大得意様なんだ」
そう言って杙梛さんは店の奥のレコード棚を見遣った。
「へぇ、優雅な趣味ですね」
「週一くらいでここに通ってくるけど、礼儀正しい、真面目な感じだ。ちょっと神経質そうとも言うか」
「そうか、そういう奴なんだ。なら大きな問題は起きなさそうだな」
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