第6章 新しい住人-ショウトツ-
「隼人」
「出来れば、もっと親しみを込める感じで」
「(親しみ…)」
「それと、もう少し笑顔があれば最高」
「(最高とはどういう意味なんだろう…)」
「はい、もう一回、呼んでみて」
「隼人!」
もう笑顔云々の前にみんなからの眼差しに堪えられなくて、私は多少引き攣った笑顔を浮かべて名前を呼ぶ。すると隼人が嬉しそうに笑う。
「それ!」
「お、お気に召したようで」
「もう一回!」
「ええ!?」
「早く」
「隼人!」
何この羞恥プレイ…
けれど彼はとても満足そうに、何度も頷いている。
「よしよし、これが命令その壱な」
「そ、その壱…?ということは…もしかして弍もあるんですか?」
「その通り」
「な、何でしょう?」
「その他人行儀な敬語もやめろ」
「(敬語まで指摘されるとは…!)」
「確かに親しき仲にも礼儀あり、とは言う。でも朱鷺宮さんならともかく、俺達は歳だってそう離れてないはずだ」
「それは…そうですけど…」
「僕は年下ですしね」
「あ、でも星川さんも敬語…」
「一番下だからだ。でもお前は違うだろ」
「……………」
何か理不尽なものを感じたけれど、取り敢えず口を噤んでおく。
「俺も全然気にしないから普通でいいよ。っていうか、堅苦しい喋りって苦手」
「鴻上さんもですか…」
「僕にももちろん、敬語は使わないでいいですよ」
とにかく、三人の意見は一致してるらしい。
「…敬語が無くなると友達感覚で喋ってしまいそうで怖いんです。それに距離が縮まった分、私の言い方もキツくなると思います。なのでまだ敬語を使った方がみんなも傷つかないかと…」
「全然普通に喋ってくれていいって。その方が俺達も変に気を遣わなくて済む。それにお前が辛辣なのは紫鶴さんとのやり取りで知ってるし、塩対応なのも別に気にしない」
「(全然引き下がってくれない…)」
「それに久世には敬語使ってないだろ」
「ツグミちゃんは女の子ですし…」
「敬語に男とか女とか関係ない。お前、俺達と一定の距離を置いて、それ以上踏み込まないようにしてるだろ」
「!」
「図星だな」
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