第6章 新しい住人-ショウトツ-
道具を片付けて戻って来ると、星川さんと鴻上さんとツグミちゃんが来ていた。
「詩遠ちゃん、お掃除お疲れ様」
「うん」
「四日目だな、今日で」
尾崎さんが私に言う。
「そうですね。今日こそは皆さんのお役に立てるように頑張ります」
「はは、まぁその意気その意気。…それでな?もう四日目ってことはかなり俺達にも慣れたよな?」
「…え?まぁ…はい、多分…」
私が答えると尾崎さんはにっ、と不敵に笑った。
「だったらもう尾崎さんって呼び方やめようぜ。隼人って呼べよ」
「え……っ」
「僕のことも苗字にさん付けじゃなくて、名前で呼んでください」
「いやでも…流石に先輩になるわけですから…」
「俺がそう呼べって言ってるんだから気にするな。はい、呼んでみて」
「…………!」
「呼べ。その敬うべき先輩の命令だと思え」
有無を言わさぬ迫力に後ずさってしまう。その横の星川さんも穏やかに微笑んでいるけど助け舟を出してくれる様子はない。
鴻上さんに至っては、興味なさそうに襟元を直している。
「(ツグミちゃん…!)」
唯一の救いであるツグミちゃんに助けを求める眼差しを送るが…。
「久世に助けを求めても駄目」
「うっ……」
「鷺澤のことは名前で呼ぶのに、俺達のことは名前で呼んでくれないの?」
「!」
その話を掘り返されると…
「でも…仕事仲間を下の名前で呼ぶのは…」
「苗字で呼ぶのも名前で呼ぶのも変わらないって」
「う、うーん…」
洋菓子店に勤めていた時は上司を名前で呼ぶ事はなかった。だから抵抗があるのかも知れない。
「一回呼んじゃえば、あとは簡単だって」
「(そう言われても…)」
「もしかして俺達の名前が分からないなんてことはないよな?」
「あ、当たり前です!」
「じゃあ早く呼んでみろって」
笑んだままの尾崎さんと静かに見守る彼ら。
「(この世界の人達とは一定の距離を置くって決めたんだけど…)」
言うまで逃してはくれないだろう。特に尾崎さんは。覚悟を決めた私は、小さく息を吸い込んだ。
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