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たとえば君が鳥ならば【ニルアド】

第1章 空の瞳の少女-トリップ-



「立花詩遠さん…?」



それで思い出したのか、久世さんはハッとした顔で私を見て言った。



「もしかして『灰かぶり姫』!?」



「!」



"灰かぶり姫"



その渾名に無意識に表情を曇らせる。



「あ!ご、ごめんなさい…!私ったら何て失礼なことを…!」



久世さんは慌てて謝罪した。



「(噂通りのお姫様だ。)」



「気分を悪くさせたのならごめんなさい…。まさかこんな場所で"あの"立花さんに会うなんて思わなくて…」



「"まるで硝子の靴を無くしたシンデレラのように幸せを無くしたあの立花さん"?」



「え!いえ、そんなつもりじゃ…!」



「いいの、気にしないで」



「…ごめんなさい」



「そんな顔しないで。幸せを無くした…とはちょっと違うけど、幸せを望めないのは本当だから」



明らかに"しまった"と云うような顔で落ち込む久世さんを気遣うように笑って見せる。それにしても女学校時代の彼女はおさげだった。それが今は綺麗に伸びている。



「(久しぶりに懐かしい渾名を聞いた。『灰かぶり姫』か…。)」



何故そのような渾名で呼ばれるようになったのかは未だに不明だが、今まですっかり忘れていた。



「立花さんはどうして此処に?」



「天気も良いし、読書をしに来たの」



「もしかして女学校時代も此処で?」



「うん。貴女を見かけたのもウエノ公園のこのベンチ。よく本を読んでいたでしょう?」



「はい」



「実は私もこのベンチで本を読んでいたの。貴女と顔を合わせなかったのはタイミングの問題だったんだね」



「立花さんもこのベンチを…。あ、もしかして眼鏡を掛けていらっしゃいませんでした?」



「よく知ってるね。女学校時代は眼鏡を掛けてたよ。まぁ伊達だけどね。」



「私も貴女を何度かお見掛けしました」



「そうだったの?」



「とても綺麗な人だったので、声を掛けようか迷ったのですが…その…」



「私と関わっちゃ駄目って言われた?」



「!」



「ふふ、貴女は嘘が吐けない人だね」



「(うぅ……)」



彼女の素直さが可愛くてつい笑ってしまう。



「『灰かぶり姫』かぁ」



「?」



「『公園の姫』には負けるね」



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