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たとえば君が鳥ならば【ニルアド】

第1章 空の瞳の少女-トリップ-



「買い食いなんてバレたら大変だったけど」



"華族らしくない"



"もっとお淑やかに振る舞うべきだ"



"爵位を持つ者ならば"



周りから散々言われてきた言葉だ。女学校の作法の先生も、礼法の先生も口を揃えて言っていたのを今でも覚えている。



「爵位がそんなに大事なのかね。卒業して本当に良かった」



清々するように言えば、ドアが控えめに数回、ノックされる。



「お嬢様、夕飯の支度が整いました」



「今行く」



私は座っていた椅子から腰を上げ、部屋を出ると夕食へと向かった。



✤ ✤ ✤


「お嬢様、今日はどちらに?」



「ウエノ公園。あそこのベンチに座って読書をするととても気持ちが良いの」



「お嬢様が女学校時代に立ち寄っていた絶好の読書スポットですね」



「うん」



「お気を付けて」



使用人に見送られ、お気に入りの淡い水色と白のワンピースに大きめのストールを巻いて、ウエノ公園を目指した。



今日のウエノ公園はとても気持ちの良い風が吹き、絶好の読書日和だ。



「(確かこのベンチ…『公園の姫』も使ってた。同じ女学校に通ってて…名前は…)」



その時、遠くから桃色のコートを着た女の子が歩いて来た。



「(あぁそうだ…名前は確か…)」



彼女はベンチに座る私の近くで立ち止まる。どうやら考え事をしているのだろう。こちらに気付く様子はない。



「久世ツグミさん」



「え?」



「そんな暗い顔をしてどうしたの?」



声を掛けると彼女は驚いた顔で私を見る。その顔色から少し警戒心が垣間見えた。



「あの…どうして私の名前を…」



「貴女と同じ女学校に通っていたの。クラスは別だったから貴女は私を知らないけどね」



「!」



「みんなが憧れた『公園の姫』に会えるなんて嬉しいなぁ」



そう言って笑えば、久世さんの強張っていた体から少しだけ緊張と警戒心が薄れたのが分かる。私は隣に手を差し出し、言う。



「隣、如何です?」



「…失礼します」



「どうぞ」



私の隣に久世さんは腰を下ろした。彼女は不安そうに私をチラッと見遣り、様子を窺っている。



「それで…あの…」



「あぁ、自己紹介が遅れました。私は立花詩遠と申します」



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