第5章 首相の苦悩-トモダチ-
「そんなことないですよ。それに今の家族の方がとても優しくて良い人なんです。こんな私を家族として迎え入れてくれたことに…本当に感謝してるんですよ」
私は微笑んで見せた。
「色々なことに慣れていくのに大変でしょうけど、無理せずにお仕事頑張って下さいね」
「有難うございます。鷺澤さんは医学部なんですよね、お医者様なんて凄いです」
「亡くなった父が医者だったので」
「鷺澤さんもご両親を…」
「もう三年も前のことですけど。ただ昨日、警察沙汰にしたくないと言ったのはそういう事情もあるんです。保証人の方にご迷惑をおかけしたくないので」
「…そうでしたか」
「父は一応外科医でしたが、小さな町医者だったのでもう本当に何でもやっていて、子供の小さな怪我の手当てとか、お婆さんが腰を痛めたから湿布を貼ってやるとか。その上、呼び出されれば早朝深夜問わず、何処までも往診に行ってしまう人で」
そう語る鷺澤さんの瞳はきらきらしている。
「(尊敬してるんだな…)」
「だから僕も…そんなふうに誰かの役に立つのが夢なんです。…って、一体何を言ってるんだろう」
「素敵な夢ですね」
「立花さんのご両親は何をしていた方なんですか?」
「母は専業主婦で、父は警察官でした」
「警察官…」
「鷺澤さんのお父様と同じ『人の命を救う』仕事です。父は犯罪に関した事件を主に扱う部署に配属していたんですが…いつも死と隣り合わせの瀬戸際に立たされていて…そんな父に母はいつも心配ばかりしていました」
「そうなんですね…」
「ですが父は警察官である自分に誇りを持っていました。道を外した犯罪者達に罪を償わせて、もう一度人生をやり直させることが自分の役目だと…そう言ってました」
「素敵なお父様だったんですね」
「父はいつも仕事に追われていて、家族全員が顔を合わせる機会は少なかったのですが…それでも幸せな家族でした」
「想像出来ます。立花さんがどれほどご両親に愛されていたのか」
「有難うございます」
鷺澤さんとは境遇が似てるからか、余計なことまで喋ってしまいそうで怖いな…。
「立花さんは何だか話しやすくて、知り合ったばかりという気がしないです。つい喋り過ぎてしまって駄目だ」
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