第5章 首相の苦悩-トモダチ-
「だから最初は、鵜飼君もそうなのかなってみんな噂してて。…ほら、首相の息子さんともなれば色々と悩むこともあるでしょう、きっと」
「……………」
「そこにそんな奇妙な本の話が飛び込んで来たので、面白がったり、怖がったりで、一気に広まってしまったんです」
その場にいなくとも、様子は安易に想像出来た。私が元の世界で通っていた高校でもそうだ。ちょっとした火種が、人の口から口に伝わっていく間にどんどん燃え上がってしまうのだ。
噂する本人達に──悪意がなくても。
「もしかして他に自殺した生徒もそのせいなんじゃないかとか…もちろん、全部が全部ではないでしょうけど」
「……………」
「あ、済みません!女性にこんな話…嫌ですよね」
「大丈夫ですよ。仕事にも関わることですし、もっと詳しくお伺いしたいくらいです」
「…そうですか?でも、残念ながら僕がお話出来るのはこれくらいなんです。本当は…──僕も、もっと詳しい真実を知りたいのですが」
「鷺澤さん…?」
「え?ああ…だって残酷じゃないですか。何の関係もない、罪のない人が巻き込まれるなんて。不条理というか…絶対に許せません」
「……………」
私は、正直少し驚いていた。
鷺澤さんとは知り合ったばかりで、彼のことを充分に理解しているとは言い難い。
ただ、どちらかと言えば繊細そうな、優しそうな彼の中にこんな信念めいたものが潜んでいる──それが意外だったのだ。
「だから、こうして立花さんと知り合えて嬉しいです。きっと犯人を捕まえてくれますよね」
「(犯人…)」
その言葉が、小さな棘のように引っかかった。もちろん、鷺澤さんにしてみればあんな目に遭わされたのだから『犯人』と呼ぶ気持ちは分かる。
「立花さん?」
「…一般の皆さんにご迷惑をお掛けしないように頑張らないといけませんね」
それが、今の私の精一杯の回答だった。
けれど鷺澤さんは納得してくれたようで、満足そうに微笑んでいる。
「それにしても初対面も同様の女性にこんな話…我ながら、色気がないなぁ」
「そんなことありません。人との会話は大切です。その言葉の一つ一つに、意味があるのですから。どんな話でも、私は嬉しいですよ」
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