第5章 首相の苦悩-トモダチ-
「(元の世界での歌なんて聴いても知らないだろうし…紫鶴さんに深く追求されなくて良かった…。曲名なんて聞かれたら終わりだ…)」
緊張を解すようにして息を吐き出した。
「おはよう、詩遠ちゃん」
「!」
「詩遠ちゃんも朝食?」
「おはようツグミちゃん。早くに目が覚めちゃってお菓子を作ってたの」
「お菓子!」
「抹茶のスポンジケーキだよ。冷蔵庫にまだ余りが残ってるから良ければ食べてね」
「有難う!」
ツグミちゃんは嬉しそうに笑った。
「お菓子も作れて料理も出来て、詩遠ちゃんは本当に手先が器用なのね」
「有難う。ツグミちゃんはこれから朝食?」
「私も早くに目が覚めてしまって。それに朝食はなるべく自分で作りたいの。だからお味噌汁を作ろうと思って」
「ツグミちゃんのお味噌汁…美味しそう」
「ふふ、良かったら詩遠ちゃんも一緒に食べる?」
「うん!」
「朝食を食べた後で詩遠ちゃんの作ったお菓子を頂くわね」
「お口に合うか不安だけど…生クリームを添えて一緒に食べると更に美味しいよ。あ、朝食の準備、私も手伝うね」
「有難う」
私達は笑い合って台所に向かった。
二人で他愛もない会話を交えながら朝食を済ませ、玄関に出ると尾崎さんと鴻上さんが既に立っていた。
「おはようございます」
「おはよ」
「おはよう」
「二人とも早いのね」
「ああ、飯屋が空いててさ、思いの外早く食べ終わったから」
「そうだったんですか」
そんなに美味しいんだろうか?
坂の下の定食屋は
「ん?なんか甘い匂いがする。立花からだ。何か甘いものでも食べたの?」
「お菓子を作っていたんです。それで体に匂いが移ってしまったのかも」
「へえ、お菓子作れるんだ!」
「詩遠ちゃんの手作りなのよ。頬が落ちそうなくらい本当に美味しいの。まるでプロの職人さんが作ったみたいだったわ」
「(ツグミちゃんが紫鶴さんと同じこと言ってる…)」
「そんなに美味いんだ」
「久世がそこまでべた褒めするくらいなら絶品なんだろうな」
「紫鶴さんにも好評だったんです」
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