第5章 首相の苦悩-トモダチ-
「へーえ、巧いもんだね。見栄えも綺麗だし、プロの菓子職人が作ったみたいだ。君が作った菓子を売れば即完売は間違いないね」
「もう…褒めても何も出ませんよ。お菓子作りは得意なんです。これでも評判は良いんですよ。料理も和と洋、どちらも作れます」
「ちなみに得意な料理は?」
「うーん…一応一通りは作れますが、強いて言うならポテトサラダが得意です。こちらも友人からの評価が高いんです」
「それなら君はいつでもお嫁に行けるね」
「あー…はい、そうですね…」
「あれ、おかしなこと言った?」
「いいえ。料理上手だとレシピのレパートリーも増えて作り甲斐もありますよねぇ」
「君にはいないの?そういう人」
「いませんよ」
「じゃあ僕なんかどう?」
「どう…とは?」
「僕を好きになれば君は幸せ者だ」
「紫鶴さん、冗談はやめてください」
「ひどいなぁ、本気なのにさ」
「兎に角、恋はしない主義なんです」
「それは残念。でもそういうことを言ってる子の方が口説き甲斐があるから楽しみが増えた」
「先生はしつこいです」
「おや、恥じらってはくれないのか。僕は初めて会ったあの日から、本気で君を口説いているのに、君はちっとも僕に靡いてはくれない。はぁ…悲しくて涙が出るよ」
「涙なんて出てませんけど。紫鶴さんも粘りますね。あれだけ断ってるのに全然諦めないんですもん」
「だって君、お茶に誘っても断るし、デートに誘っても断り続けるし…。正直もう何で釣ろうかなんて考えず、猛アタックし続けたら、いつか僕に落ちてくれるんじゃないかと思ってね」
「私はそう簡単には落ちませんよ」
「うん、その方が僕も口説き甲斐がある。だから僕の知らないうちに他の誰かと恋に落ちて大人にならないでおくれ」
「(…本当にこの人は…)」
「そういえば、毎日ストール巻いてるよね」
「首元が冷えるので欠かせないんです。もちろん寝る時は外しますよ」
「そうなんだ」
「甘いもの、苦手ではないですか?」
「そんなに甘くなければ大丈夫」
完成した抹茶のスポンジケーキが乗った皿を運んで、私と紫鶴さんは向かい合ってテーブルに着いた。
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