第4章 襲われた少年-キオクノハコ-
「どうした?気分でも悪いのか?」
「い、いえ…少し驚いただけです」
路地裏が暗いおかげで、血の気を失った顔の悪さには気付かれずに済んだ。
「……ぅ……」
「!?意識が…!」
尾崎さんの視線は私から外れ、意識を取り戻した少年に向けられた。
「……く……ぅ、あいつら……」
「大丈夫ですか?まだ起き上がらない方がいいです。今、警察と医者を…」
「いえ…大丈夫…です…警察は…出来れば…避けていただけると…」
彼は苦しげにそう告げ、大きく息を吐いた。
「ですが、暴漢に襲われた以上…」
「暴漢というか…それ、だと思うんです…」
彼は弱々しく手を動かし──側の本を指した。
「本…ですか」
私達は短く視線を交わす。
「近くの本屋でこれを買って来たばかりなのですが…知らない男達にいきなり殴られて…本を燃やされて…しまい…ました」
「…そんな!」
男性が後頭部をなぞりながらゆっくりと起き上がる。
「あの、何処か殴られたんですよね!?起きたら危な…」
「…大丈夫ですよ。これでも医者の卵なので、そのあたりは…感覚で分かります」
「え……」
「…お恥ずかしいところをお見せしてしまって申し訳ありません。僕は鷺澤累、帝都大学医学部の学生です」
ほんの少しまだ苦しげにそう言って、彼はズボンの土埃を払った。
「さっきも言いましたが、警察沙汰は出来れば遠慮したいんです」
「失礼ですが、どういった事情で?場合によっては貴方の責任が追求される可能性もありますよ?」
「…──少し前に、首相の息子が自殺を図りましたよね。彼、うちの法学部なので。怖いじゃないですか、そんな不気味な本。でも先生達は口を噤んでるし」
「まぁ、そうでしょうね」
「貴方がたに愚痴っても仕方ないですけど、燃やされたこの本、割と貴重な医学書で結構高かったんですよ?また探し直さないと…はぁぁ…。なので、正直関わりたくないんですよ。…警察沙汰になったら大学にも友人にも知られてしまうし」
「そのお気持ちも分かります」
既に灰になった本を見ていると、向こうから鴻上さんが戻って来た。
「…済まない。逃げられた」
「駄目だったかぁ。…はぁぁ。」
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