第4章 襲われた少年-キオクノハコ-
「大丈夫ですか!?な……!?」
「きゃぁぁ!?」
「………っ!!?」
ツグミちゃんが悲鳴を上げる。
倒れ伏した人影のそばに炎が燃えている。ツグミちゃんの足は恐怖で震えていた。
ドクンッ
ドクンッ
「……は、ぁ……」
心臓の音が五月蝿いくらい、大きな音を立てて急速で鳴り続ける。
「はぁ……はぁ……っ」
私は咄嗟に口許を手で隠すように覆い、瞳孔が見開いた目で倒れた人影を凝視めた。
「(…人、が…)」
「隼人!俺は逃げた方を追う!」
「ああ任せたぞ!」
「(目を閉じて…ピクリとも…動かない…)」
ドクンッ
ドクンッ
ドクンッ
「は、ぁ……っ」
呼吸が苦しくなり、身体が震え始める。
「見たところ外傷はないな。でももし頭部を強く打ってたら危険だ。動かすなよ」
「え、ええ…」
ツグミちゃんは膝をつくと、本を包む本物の炎を見つめる。
「(重なる…"あの日"と──。)」
固く閉ざした記憶の箱。鍵を掛けたはずの錠が、私の心の悲鳴に共鳴するように、ミシミシと音を立てて壊れ始める。
『彼女は自殺だった。窓から飛び降りたのも自分の意志だった。だから…』
『お前のせいではないよ』
『そう、だって彼女は──……』
その言葉の続きを思い出すことが出来ない。でも"彼"は言った。『彼女が自殺したのは私のせいではない』と…。自殺したのは彼女の意志で、誰を責めても仕方ないこと。
"誰を責めても"
違う 彼女が命を絶ったのは…
「("彼女"が、死んだのは…)」
私のせいだ───。
「(…大丈夫、死んでない。"この人"は生きてる。死んでなんか…いない。)」
気を失っているだけ。必死に自分の脳裏に刷り込ませる。襲ってくる嗚咽感に何とか堪えるも、心臓の音はまだ少し速い。
「!」
その異変に気付いた尾崎さんが
不思議そうに私の名前を呼ぶ。
「おい立花、大丈夫か?」
「……………」
「立花!!」
「っ!は、はい…大丈夫ですっ!」
呆然と佇んでいる私に声を掛けても反応がないと思った尾崎さんが今度は強めに私の名前を呼んだ。そこではっとして意識を戻す。
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