第4章 襲われた少年-キオクノハコ-
今度は尾崎さんががっくりと肩を落とした。
「というわけなんです。実はこの後、待ち合わせがあって。もう行ってもいいですか?」
「ああ、お引き留めしてしまって申し訳ありません。今回の件に関しては警察への報告は行いません。なるべく早く解決出来るように尽力致します」
「よろしくお願いします、では。」
鷺澤さんは頭を下げ、足早に去って行った。そうしてその後ろ姿が見えなくなった頃。
「あああー!何かまた面倒なことになってきてるー!」
「それ、稀モノだったのか?」
「印刷された本ですから、違うと思います」
「首相の息子の事件で怖気づいた奴らが、手当り次第に本を燃やしてんだよ、多分な」
「やっぱりそういうことか」
「気持ちは分かる、分かるけど…傷害事件になんてなったらまた余計な苦労が…」
「まぁ悪化する可能性は充分にあるよな。不安は不安を呼ぶし」
「取り敢えず、戻って朱鷺宮さんに相談しよう」
✤ ✤ ✤
「それはまた厄介な事態になってるな」
朱鷺宮さんは尾崎さんの話を黙って全部聞いた後、煙草を箱から引き抜いた。
「『怖いから本を燃やす』というところまでは別に犯罪じゃないし、人間の心理として理解出来る。ただ買った本を奪ったり暴力はなぁ…。だが、本人達にしてみれば『正義』のつもりだろうな」
「まぁそうですよね」
尾崎さんが答える。
「若干不安は残るが、もう少し様子を見るか。取り敢えず、稀モノ探しを頑張りつつ、不審な者がいたら注意してくれ。明日からも頼むぞ」
「ラジャー!」
「はい」
「分かりました」
「了解です」
「気を引き締めて頑張ります!」
「さて、じゃあ夕飯に行くか。今日は夜鳴き蕎麦にするかな。新入りも一緒に来るか?」
「ええ、是非ご一緒させて」
「僕も行きます」
「俺は遠慮するよ。じゃあな」
鴻上さんが軽く会釈をして足早に去って行く。
「立花はどうする?」
「私も今日はやめておきます。夜鳴き蕎麦は美味しそうですが…少し疲れてしまって」
「そっか。じゃあ俺達だけで行ってくるな」
「はい」
私は彼らを見送ってから自分の部屋に戻った。
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