第39章 生まれた意味-クロエ-
「っ………!!」
「彼女を直す事は不可能だ」
「(こんな…運命って…)」
絶望過ぎて目の前が真っ暗になる。
「クロエ…」
瞼の上に手を翳すように当て、彼女の目を閉じさせる。こうして見ると機械人形なんかじゃなくて本当に人間みたいだ。
「また…いなくなっちゃった」
洩れた声は、覇気がなかった。
「どうしていつも大切な人を失うの…。両親だって…瑞稀だって…クロエも…。みんな…私を置いて遠くに逝っちゃうの…」
「………………」
「どおしてぇ……っ」
泣いても何も変わらないことは分かってる。あの時のように縋り付いて泣き喚いても、亡くなった人は生き返らないし、二度と会えない。
「(分かってるのに…)」
唇を噛み締めてクロエを見下ろす。
「(泣くな。泣くな泣くな。彼女の犠牲を無駄にするな。)」
こちらに歩み寄って来る長谷君は稲妻で焦げた黒い本を拾い上げ、私の元まで来る。
「だから言っただろう。お前が素直に僕の命令に従っていれば彼女はこんなことにならなかった」
「………………」
「知り過ぎるのも良くないことが分かったはずだ。お前は『知らなくていい』んだ。今まで通り鳥籠の中で生きればいい」
彼は片膝を付け、跪く。
「これで…許してくれるか?」
「?」
「僕もお前と一緒に────」
陶然とした笑みを浮かべる長谷君だが、その瞳は悲しい色を孕んでいた。
『お前がいなくなったら俺、困るんだ』
『絶対に…お前を助けるから』
「………!」
上着のポケットからお守りを取り出す。空色の綺麗な安全祈願。私の瞳と同じ色。
「(大丈夫…絶対に救う。彼女も長谷君も。この運命を…最悪の因果を…断ち切る───!)」
「何を企んでる?」
そのお守りをギュッと握り締め、私は制服のスカートの裾を、片手でほんの少しだけ押し上げた。
「(見た限り…長谷君は武器は持っていない。)」
目の先を横切る程度で脅しになれば。その瞬間、長谷君は怯むはず。いくら動じない彼でも、ナイフを突きつけられたら意表を突かれるだろう。
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