第3章 初めての巡回-ジユウ-
「処女の常套句だよなぁ、それ。
何なら俺が手ほどきをしてやろうか」
「あまりしつこいと怒りますよ」
「怒った顔のお嬢さんも好きだぜ」
「そんなこと言っていいんですか?私、こう見えても強いんですよ」
「へぇ…その華奢な体で何が出来る?」
「剣道が得意なんです。男性と試合をして敗けたことがないんですよ」
「!」
「なので脳天に竹刀を叩きつけて気絶させましょうか?あぁ…それとも峰打ちの方がいいですかね?」
私の発言にその場にいる全員が驚いた表情で目を見開き、唖然としていた。
「まぁ…流石にやりませんけど。でも私を揶揄うのはそろそろ止めてくださいね」
私が横目で店の中に並んでいる剣らしき物に目を向ければ、それに気付いた杙梛さんは、やれやれ、と云ったように降参した。
「お姫様とはまた違うタイプだな」
「その辺で勘弁してやってくれないか。華族育ちの世間知らずだから、冗談が通じないんだ」
「(…鴻上さん、悪気はないんだろうけど…)」
心がチクっとした。
「お嬢さん、改めてこれからよろしく」
「こちらこそよろしくお願いします」
お辞儀をして、また店の中を見回す。
万年筆、万華鏡、ステンドグラス、レコード、ハンカチ、リボン、ブローチ、簪、便箋…。
「(香水瓶、石鹸、手鏡まで置いてある…)」
元の世界と変わらない品物に懐かしさを感じた。その片隅にある物を見つける。
「(茜色のブローチ…)」
彼と同じ瞳の色…
「……………」
私は耳に付けている茜色のピアスに触れる。
「じゃあそろそろ次の店に行くか」
「またな」
こうして私達は杙梛さんのお店を出た。
✤ ✤ ✤
「すみませんでした」
「え?」
「さっきの杙梛さんの態度。貴女のことを揶揄って楽しんでいるだけなんだと思います」
「星川さんが謝る必要はないです。それに私もつい喧嘩腰になっちゃって…。まぁ、あの人の愛人云々の話には流石に嫌気が差しましたけど…」
溜息を吐いて、歩き出した時だった。
「ところでさ、結婚する気ないの?」
「え?」
「いやさっきの」
「それは…杙梛さんとの、てことですか」
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