第3章 初めての巡回-ジユウ-
「じゃなくて!心に決めた誰かと結婚する気はないのかってこと」
「……………」
さっき尾崎さんが驚いてたのはそれだったか
「ないというか…まぁ…そう、ですね…」
「どうして」
尾崎さんの真っ直ぐな目に堪えられず、俯いてしまう。
「…怖いんです、幸せを望むことが…」
「怖い?」
「幸せを望んだ分だけ不幸が訪れる。その幸せが壊れた時、人も壊れるんです。私のせいで誰かの幸せが壊れて、その人の人生さえも狂わせてしまうのが…怖いんです…」
私は震える手で茜色のピアスに触れる。
「私は…幸せが永遠に続かないことを知っています」
鳥籠に囚われた【私】は
その幸せですら
自らの意思で捨ててしまった
「それに…私を好いてくれる男性はいないと思いますし」
「そんなことないだろ」
「!」
「あんたは幸せを望めないって言うけどな、あんたを幸せにしたい男はいると思うよ」
「(私を…幸せに…)」
「恋に臆病な立花の心に寄り添って、たくさんの愛を注いでくれる男は絶対にいる」
「尾崎さん…」
「それに立花は自分が思ってるよりも十分可愛いよ。お前に一目惚れした男はきっとお前のことを放っておかないし、絶対に大事にする」
「…そうでしょうか」
「俺の言葉を信じろ」
尾崎さんの自信に満ちた眼を見て、本当に私を幸せにしてくれる人が現れるんじゃないかと思ってしまう。
「…はい、有難う…ございます」
「立花さんはとても素敵な女性ですよ」
「…星川さん」
「私は詩遠ちゃんの幸せを願うわ。例え詩遠ちゃん自身が幸せを望めなくても」
「ツグミちゃん…」
鴻上さんは何も言わなかったが、自信を持てと言っているかのような目を向けられる。
「皆さん、有難うございます」
頭を下げて顔を上げ、柔らかく微笑む。
「あ、笑った」
「え?」
「その方がいいよ。すごく可愛い。」
「えっと…有難うございます…」
「立花って元々が可愛いんだよな。笑うともっと可愛いんだからさ、ずっと笑ってればいいのに」
「お、尾崎さん…あの…その辺で…もう…」
尾崎さんの言葉は本当に正直だ。
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