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たとえば君が鳥ならば【ニルアド】

第1章 空の瞳の少女-トリップ-



「縁談か…」



おじい様が気を遣って



縁談を持ち込む気持ちもわかる



でも…それだけはダメなの



私は幸せを望むことも



幸せになることも許されない



「それだけは…絶対に。」



読書をと思ったが、気分転換に外出したくなり、クローゼットからコートを出す。



「ついでに雨月堂に寄って行こう」



大きめのストールを首に巻き、私は屋敷を後にした。



✤ ✤ ✤


雨月堂で購入したエクレアを持って、迎えの車を待っていると、何やら遠くの方が騒がしかった。



やがて慌てふためいた男達が、こちらに向かって走ってくる。



「おい、早くしろ!首相の息子が自殺するなんて一大事だ!」



「!?」



「分かってるよ!でもまさか…これも『例のアレ』絡みだって思ってるのか?」



「俺は絶対にそうだと踏んでる!警察に揉み消される前に調べ上げるぞ!」



「(首相の息子が自殺…?)」



雑踏の中に走り去ってゆく記者らしきその姿を、つい目で追ってしまう。



「(『例のアレ』って何だろう…?)」



そう考えてる間にも、あっという間に彼らの姿は見えなくなり、代わりに迎えの車が私の横に停まる。



「せっかくおじい様と一緒に…って思ったんだけど、今日は無理そうかな」



エクレアが入った箱を見下ろし、苦笑する。私は少し引っかかるものを胸に残しながら、車に乗り込んだ。



「旦那様にお土産ですか?」



「うん」



「それは旦那様もお喜びになります」



「どうかな…おじい様は甘いものは余り得意じゃないから」



「それは違います、お嬢様」



運転手の彼がミラー越しに私を見る。



「旦那様はお嬢様の差し入れがとても嬉しいのです。この間もお嬢様がお作りになられたクッキーを美味しそうに召し上がっておられましたよ」



「それは素直に嬉しいな」



私は嬉しくなり、微笑む。



「それより…宜しいのですか?」



「え?」



「その…旦那様がお屋敷に戻られたということは…お嬢様に…」



「あぁ…様子を見に来たついでに縁談話だったよ」



彼が放つ空気で何が言いたいのか察した私は、窓に頭を寄せて外の景色を見る。



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