第1章 空の瞳の少女-トリップ-
「良くそこまで自分を褒めれますね。聞いてもいないのにビックリです」
開け放たれた窓から入り込む風が、私の金色の長い髪を柔らかく撫でる。
「…そうではないのです」
靡く髪を耳に掛ければ、茜色のピアスが反射してキラリと光った。
「幸せになるのが怖いんです」
そう答えると、おじい様は眉を下げ、悲しげに私を見つめる。
「私が幸せを望む事で、不幸にしてしまう人がいるんです。例えおじい様のような男性が現れても…幸せになれない結婚を、相手の方は望みませんから」
「不幸にしてしまう…か」
「ごめんなさい…身勝手な理由で…。おじい様は私の為に縁談を勧めてくれてるのに…我儘を言って困らせてしまって…」
「いや…儂も急かし過ぎた。お前の幸せを願う余り、お前の気持ちを考えなかった。我儘なのは儂の方だったな」
「おじい様…」
「だが詩遠、これだけは覚えておいてくれ」
真剣な表情でおじい様は言う。
「この世界に幸せになってはいけない人間などおらん。人は誰かに愛され、誰かを愛する為に生まれてくる」
「!」
「いつかお前が自分の幸せを望み、心の底から誰かを愛する日が来ることを願っておるよ」
「……………」
「お前の"幸せになるのが怖い"という不安を消してくれる、そんな男と巡り会える事をな」
優しい眼差しを向けるおじい様は今までの沈んだ空気を変えるように、いつもの調子に戻る。
「さて!儂はこれで警視庁に戻る!」
「そうですか」
「くれぐれも危険な事に首を突っ込まないように!お前に何かあれば儂は心臓発作を起こして倒れてしまいそうになる!」
「やめてください縁起でもない」
「わはは!」
「読書の続きがしたいので用が済んだら帰ってくださいな」
「孫娘が冷たい。儂悲しい」
ぐすんっと両手で顔を覆う。それが嘘泣きだと知っているのでスルーを決め込む。
「体調には気をつけるんだぞ」
「おじい様こそ、仕事で忙しいのは分かりますが、あまり無理はしないでくださいね」
「では、行って来るよ」
私の頭を優しく撫で、おじい様は警視庁に戻って行った。
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