第39章 生まれた意味-クロエ-
「あたたかイ…」
「涙だよ。悲しい時、辛い時、苦しい時、嬉しい時、幸せな時。人は涙を流すの」
「…涙。コレが…涙なのですネ」
目尻に浮かぶ涙を指先で拭う。
「何故…お前が涙を…」
「!」
「あり得ない。機械が泣くなんて聞いたことがない。お前は後遺症で全ての感情を無くしたんだ。それなのに…」
「叶斗様。私は…嬉しいのデス」
「何…?」
「嬉シいという感情ハ分かりまセン。でも…泣くことが出来て嬉しイのでス。詩遠の言葉ガ…嬉しかったのデス」
涙を流したまま、クロエは真っ直ぐな瞳で私を見つめる。
「私モ貴女と出会うことガ出来て幸せでス」
「クロエ…!」
何故だか分からないが、無表情の彼女が笑った気がした。私は彼女を抱き締め、嬉しさで涙を流す。
「ずっと隠しててごめんね…っ」
クロエは目を瞑り、首を振る。
「私ヲ守ってくれて、有難うござイます」
クロエも私を優しく抱き締め返す。
「大好きですヨ、詩遠」
「うん!私も大好きクロエ!」
「(不思議でス…心は無いハズなのに…本当に心ガあるみたいに…あたたカい。)」
そしてクロエは私を離して、長谷君を見た。
「叶斗様、お願いガありまス」
「……………」
「彼女が幸せになることヲ許してあげテくださイ」
「クロエ…」
「詩遠にはトても大切な方がいまス。ですが貴方と交わシタ約束のセイで、彼女ハ幸せヲ望めなイのです。呪いヲ解いてくだサイ。」
「…断る」
長谷君の冷たくて鋭い眼光が向けられる。
「僕を置いて自分だけ幸せになるなんて…絶対に許さない。お前が幸せになるなら…僕は彼を───殺すまでだ。」
「っ!」
殺意の孕んだ眼差しにぞくりとした。長谷君の目が本気で隼人を殺そうとしている。
「寂しいのデスね」
「寂しい…?」
「怖イのです貴方は。詩遠がいなくなって独りぼっちになるコトが。」
「!」
「だから彼女ヲ手放シたくなイのデス」
「違う。僕は何も恐れてなどいない。ましてや…孤独になんて」
「長谷君、もう終わりにしよう」
「…何?」
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