第39章 生まれた意味-クロエ-
「詩遠?何故そんなに怒ルのでスか?」
「駄目…お願い、聞かないで…」
顔を青ざめる私を見て、クロエは不思議そうに小首を傾げる。
「クロエ、お前には何故記憶がないのか分かるか?」
「イイエ」
「では…お前が笑う事も悲しむ事も出来ないのは何故か分かるか?」
「…心の病だト叶斗様が言いましタ。だから私は全ての感情ヲ失っテいるのだと…」
「そうだ。確かに僕はお前が目覚めた時、記憶が無い事と全ての感情が無い事を伝えた。けれどそれは心の病ではなく、後遺症なんだ」
「後遺症…ですカ」
「長谷君、やめて…」
「お前に隠していた秘密を教えるよ」
「言わないで…お願い…っ」
「クロエ、お前は───……」
耳を塞いでしまいたかった。今だけ、全ての音を消してほしかった。そうすれば長谷君の声は彼女には聞こえない。でも神様は意地悪で、彼の声を彼女に届けてしまう。
「瑞希に似せて造ったクローンなんだ」
「クローン…?」
「お前は死亡した瑞希の躰から採取した細胞で造った、機械人形なんだよ」
「機械…人形…」
「僕は彼女のためにお前を造った。しかし目覚めたお前に瑞希としての記憶は一切無かった。そして造った後遺症で、全ての感情を失った」
「……………」
「違う…そんな…私はただ…こんな結果になるなんて…こんなはずじゃ…」
「でもお前はあの時願ったじゃないか」
『もう一度だけ会いたい』
そう…あの時、願ってしまった
死んだ彼女に、もう一度会いたいと───。
『お前の望みは、僕が叶えてあげるよ』
長谷君は願いを叶えてくれただけ
私の…望んではいけない願いを
「でも!こんな形で会いたくなかった!」
「……………」
「あっ……」
隣でそれを聞いていたクロエにハッとする。彼女はどんな酷い言葉にも表情を変えない。それが少しだけ…寂しかった。
「私に記憶ガ無いのは…私が機械人形トして造られたからなのでスね。そして私は…彼女の代用品として生まれタ」
「代用品なんて…!」
「いいのデス。それが生まれた意味なら…彼女の代ワりにしてくだサイ。クロエでは無く、瑞希ト呼んで構いまセン」
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