第39章 生まれた意味-クロエ-
彼は妹のために物語を書き上げた。ただ喜ぶ顔が見たくて書いただけなのに…自分のせいで妹は焼身自殺を図ってしまった。
妹は本に殺されたんだと何度も訴えたが、世間は信じず、逆に批難を浴び、居場所を失った。
そして彼はあの世界に逃げてきた。
一冊の和綴じ本と共に……。
「(赤い本はあの世界で書いたもの。そして稀モノを手にした瑞希は窓から飛び降りた…)」
私は悔しさから唇を噛んだ。
「…百舌山教授を殺したの、長谷君でしょう」
「あぁ」
彼はあっさりと白状した。
「どうして殺したの?」
「お前を研究しようとしたからだ」
「まさか…そんな理由で?」
「何を驚く事がある。人体実験にされそうになったお前を僕はあの男の手から救っただけだ」
人の命を奪った事に関して、長谷君は悪びれた様子もなく、平然と言ってのける。
「そして…尾崎隼人からも救わなければならない」
「え…!?」
「僕は彼の事が嫌いなんだ。あの男の真っ直ぐな性格は…僕には無神経に見える。人の痛みなど到底理解出来ないだろうね」
「そんなことない!!」
「……………」
自分でも驚くほど大きな声が出た。
「お前が彼を庇うのは許せないな」
「!」
「あの男は僕達の秘密を知らないんだろう?」
「…………っ!」
「秘密?」
クロエが不思議そうに呟く。
「違うのクロエ…秘密なんか…」
「詩遠。僕と共に帰る気はあるか?」
「!」
「僕はその答えが欲しい」
「…帰れ、ない」
顔を俯かせ、掌を握る。
「ごめんなさい…長谷君。私は…元の世界には帰らない。この世界で…幸せになりたい」
「……………」
「約束を破って…ごめんなさい」
「やはりな───」
深い溜息を洩らした後、長谷君はクロエを見て話し始める。
「僕達は誰にも言えない秘密を共有している」
「長谷君!?」
「それはお前に関する事だ、クロエ。」
「やめて…っ!!」
廃屋に私の怯えた声が響き渡る。
「何を…言うつもり…?」
「お前が元の世界に帰るのを拒むなら、僕は彼女に全てを話す」
「駄目!!」
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