第39章 生まれた意味-クロエ-
奥から姿を見せた長谷君は穏やかな笑みを浮かべているが、その瞳はどこか冷たい。
「やぁ、おかえり。僕の最愛の駒鳥。」
瞳の奥にはもう、あの頃のような優しさとあたたかさに溢れた色はないのだと知り、悲しくなった。
「手荒な真似をして済まないな」
「平気デス。痛みハありまセン」
「さて…早速話し合いを始めようか」
冷たい双眸を向けられ、思わず肩が跳ねる。
「お前は何が知りたい?」
「…5年前に起きた事件、知ってる?」
「何……?」
その話題に触れた途端、周りの空気が豹変し、片眉をピクリと跳ね上げた長谷君は不快そうに顔を歪めた。
「…5年前の事件など知るはずがないだろう」
「じゃあ教えてあげる。当時13歳だった彼は自分の書いた本で妹を殺してしまったの」
「……………」
「でも彼は故意に妹を殺したんじゃない。喜ぶ顔が見たい一心で、ただ純粋に物語を書き上げた。彼は知らなかったの、まさか自分が書いた本で妹が──……」
「やめろ。」
「!」
聞いた事もない声で
苛立つように言葉が吐かれた。
「長谷君、私知ってるの」
「……………」
「5年前に起きた事件の被害者は…君の妹なんでしょう?」
長谷君の眉間がぐっと寄せられた。
「君はただ妹さんの喜ぶ顔が見たかった。悪意のない純粋な気持ちで本を書いた。そうなんだよね?」
諭すように問うも、彼は何も答えない。
「そして君は…」
今ならハッキリと断言できる。
「本当はこの世界で生まれた」
その事実にクロエは私を見た後、表情を変えない長谷君を見つめた。
「これが…君がずっと隠していた『秘密』だったんだね」
私に秘密を暴かれた長谷君は観念したのか、小さな溜息を一つ零す。
「まったく…お前の追求心には感心するよ。まさか…その事件の事を聞かれるとは思わなかった」
「でも分からないの。長谷君がこの世界で生まれたのなら…どうやってあの世界に来たの?」
「簡単だよ、僕は願っただけだ。"この世界から逃げたい"と。世間が僕を人殺しと呼ぶ世界から消えたかった。そしたら…あの世界にいたんだ」
「……………」
長谷君は窓から見える月を見上げた。
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