第39章 生まれた意味-クロエ-
「怒った時の声も…恥ずかしがった時の声も…全部愛おしくて…俺だけのものだって感じられる。けど…その声が永遠に聞けなくなるのは嫌なんだよ」
「!」
「…お前のことだからどうせあいつに上手く丸め込まされて元の世界に一緒に帰るとか言わされる気がして不安なんだけど…」
「そ、それは分からな…」
「頼むから…帰るな」
「!」
「お前がいなくなったら俺、困るんだ」
隼人が抱きしめる腕を緩めて私を見る。
「まだポテトサラダ作ってもらってないし、一番大事な野望がまだ叶ってない」
「…野望?」
「全部片付いたら実行するよ。だから元の世界に帰られちゃ困るんだ。それが叶わなかったら、むしろ俺が死んでも死に切れない勢い」
「…一体何なの?」
「気になるならこれからも俺の傍にいてよ。長谷を説得して、俺のところに帰ってきて」
「……………」
「あんたのいない人生なんて考えられない。俺はこの先もずっと立花と一緒にいたいんだ」
ここまで一途に私を想ってくれているんだと改めて実感した。私も隼人のいない人生なんて考えられない。彼に会えないのは…やっぱり、凄く寂しい。
「じゃあ…総てが片付いたら教えてくれる?」
「!」
「ちゃんと隼人のところに帰るから」
「もちろん…!」
嬉しそうに笑って、彼が私をもう一度、抱きしめる。今度は私からも抱き締め返した。
「(長谷君を説得して、クロエを守る。大丈夫…私の声は必ず長谷君に届くはずだから。)」
今はそう信じるしかなかった。
「ちゃんと…隠さんを救ってね」
「あぁ、分かってる…」
「ツグミちゃんと弟さんを守ってね」
「大丈夫、心配すんな」
「うん」
「…こっちの事件が片付いたら、急いでお前のところに行くよ。だから…あいつに上手く丸め込まれても絶対に諦めんな。お前を信じてるけど…万が一って場合もあるだろ。もし身の危険を感じたら逃げろ。自分から死にに行くな」
「大丈夫、頑張るよ」
「俺が行くまで無茶はするな。無事に着いたら絶対に俺が助けるよ」
「…うん」
「お前は俺が見込んだ女だ。悪意なんかに負けない奴だ。だから最後まで諦めないでくれ」
「…分かった」
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