第39章 生まれた意味-クロエ-
「(…私が突然いなくなったら、みんな驚くかな。隼人は…きっと心配する。ごめんね…約束は守れそうにないや。)」
『俺もお前の前から絶対に消えない。だから…お前も絶対に俺の前からいなくなったりするな』
「(私に恋を教えてくれて有難う。)」
そうして踵を返し、アパートを出ようとした───。
「どこ行くの」
「っ!!??」
振り返った先にいたのは…ここにいないはずの彼の姿だった。
「は、隼人…」
想定外の事態に言葉を失う。
「な…何でここにいるの!?みんなと一緒に廃屋に向かったんじゃないの!?」
「向かおうとしたよ。でもお前の様子が明らかに不自然だったから気になって引き返してきた」
「!!」
「もちろん朱鷺宮さんに断りは入れた。もしかしたら立花も危険な道に自ら行こうとしてるかも知れないって伝えたら、大事なものを失う前に連れ戻して来いってさ」
「……………」
「で…お前はどこに行くつもりなんだ?」
彼の声に微かな怒気を感じた。夜だからか、声は小さめにしているが、それが余計に怖かった。完全に怒っている。
「お願い隼人…何も聞かずにこのまま朱鷺宮さん達のところに戻って」
「お前を連れてなら戻るよ」
「私は…行けない」
「駄目、絶対に一緒に連れてく」
「隼人、お願い」
「お前の頼みなら何だって叶えてやりたいよ。でも、そのお願いは聞けないし叶えない」
「どうして…」
「長谷の所に行くつもりなんだろ?」
「!!」
彼は足早に私に歩み寄り、きつく抱き竦めた。
「っ、お願い…離して」
「離したらお前、あいつのとこ行くだろ」
「隼人、お願いだから…」
「じゃあ振りほどいて」
「…狡い。私が出来ないの…知ってる癖に。隼人は…意地悪な人」
大人しく抱き締められる事にした。彼の体が僅かだが震えていることに気付いたからだ。
「俺を殴ってでも行けばいい」
「…殴らせてくれないでしょ」
「振り下ろした手を掴んで唇にキスする」
「もう…バカ。」
「その声、すごく好き…。柔らかくて優しい、俺の好きな声」
「隼人…」
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