第39章 生まれた意味-クロエ-
《お前は僕と話し合った後、元の世界に帰る。まぁ…お前が素直に応じてくれれば…だが。》
長谷君の口調が鋭さを増した。電話の向こうで彼が今、どんな顔をして私と通話しているかは分からない。
《お前を尾崎隼人と接触させたのはまずかったな。》
「え?」
《鳥籠を管理しているのは僕だ。逃げ出せないように鍵まで掛けたというのに…とんだ誤算だったな。》
「長谷君…」
《呪いは解かない。》
「っ………!」
ギクッと心臓が嫌な音を立てた。
《お前は僕の駒鳥だ。飼い主を置いて一人で何処かに飛んで行くなんて許さない。》
「わ、私は…」
《お前はずっと僕の傍にいるんだ。》
「……………」
《一緒に帰ろう、大切な僕の駒鳥。》
優しい声色で彼が囁く。私は何かに堪えるようにグッと感情を抑え込み、辛そうに眉を寄せる。
《無事に帰れたら、お前の好きなお菓子と紅茶を用意して、楽しい話をしよう。》
「(長谷君…)」
《待っているよ──……》
プツッと通話が切れ、ツーツーという音を聞きながら、私は溜息を洩らす。
「……………」
その後すぐにメールが届き、長谷君が指定した場所までの順路が詳しく記されていた。
私は今まで過ごした部屋をぐるりと見回す。元の世界の自分の部屋に似ていて、とても安心できた。
「ツグミちゃんは隠さんを説得する。上手くいけばいいな…。彼女の想いが届く事を祈ろう」
それくらいしか出来ない。もう何もしてあげられる事はない。このまま誰にも別れを告げずにアパートを出よう。
「(あぁでも…おじい様は心配するかな。)」
私を引き取ってからずっと面倒を見てくれた命の恩人。見ず知らずの私を立花家に迎えてくれた優しい人。
「(せめて最後にお礼の気持ちを伝えよう。)」
夜は段々と色を変えていった…。
✤ ✤ ✤
午後8時───。
廃屋へ向かう人間は、最小限に留める事になった。探索部のみんなと燕野さん、そして彼の信頼の置ける仲間。
私はおじい様に緊急で呼び出されたから遅くなるとだけ言い残し、彼らと別行動を取った。
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