第39章 生まれた意味-クロエ-
隠さんが逃げた──。
私は朱鷺宮さんからそう聞かされた。
「…隠さん」
書庫に逃げ道があり
そこから逃亡したらしい。
「やっぱり駄目なの…?」
ベッドに座り、悲しみに嘆く。
「何をしても…届かないの?」
あの後、ツグミちゃんに逃亡した隠さんから電話が掛かってきた。どうやら彼女の弟さんを人質として連れ出したようだ。
「(隠さん…お願い。彼女の声を…想いをちゃんと聞いてあげて。)」
指定した場所に必ず一人で来るように言われたツグミちゃんは混乱していた。それでも彼女は弟さんを助けるために、隠さんを救うために一人で向かうことを決めた。
「彼女を信じて」
今夜8時───。
それが約束の時間だった。
「(隠さんはきっと…ツグミちゃんと弟さんを連れて行く気なんだ。)」
炎の中に───。
「そんなの…絶対にダメ」
ピリリリッ
「!」
タイミングを見計らったように携帯が鳴る。私は通話ボタンを押し、耳に当てた。
「もしもし」
《今日は元気がないな?》
「…どうせ知ってる癖に」
苛立つように言えば、電話越しで長谷君が笑った。
《時間が作れた。》
「え?」
《お前が話し合いをしたいと言ったんだろう。時間と場所を教えるから今から…》
「ま、待って!」
《何だ。》
「今の状況、分かってる…?」
《『炎の怪人』である隠由鷹が久世ヒタキを病院から連れ出したんだろう?》
「ホント…どこまで知ってるの」
《今夜8時、指定した場所に来い。そこで話をしよう。》
「今夜…8時…」
《隠由鷹の件は警察に任せておけ。どうせあの男は逃げられない。それにお前がいたところで何も役には立たないだろうからな。》
「……………」
《場所は誰にも知られるな。僕は彼女を連れて先に向かっている。指定場所はメールに送る。いいか?必ず一人で来い。もし約束を破ったら…分かっているな?》
「うん…分かってる」
《隠由鷹の事件でフクロウも警察もそっちで手一杯だろう。お前一人欠けたところで気付かない。あんな大事件を抱えていて、他人を気遣ってやれる余裕なないからな。》
「……………」
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