第38章 イニシャル-ウソツキ-
「(黒い本の事も。)」
『きっと貴女の想い人は、貴女を嫌ったりしませんヨ。軽蔑したりなんかしまセン』
「……………」
覚悟を決めた私は、真っ直ぐに隼人を見る。
「あのね、話があるの」
「!」
「…聞いてくれる?」
「もちろん」
嬉しそうに笑う隼人を見て
私は椅子に座り直した。
「始まりは──……」
仕事に向かう途中で階段の上から誰かに突き落とされた事、犯人は分からない事、それがキッカケでこの世界に飛ばされた事。
長谷君と瑞希とは学生時代からの友達である事、長谷君と交わした約束の事、そして彼が持っていた黒い本の事について隼人に話す。
「…今まで黙っててごめんなさい。私、長谷君から総て聞かされてたの。隠さんが黒幕だって事も。でも…言えなかった」
「……………」
「ずっとみんなを騙してる自分が嫌だった。ずっと…知らないフリをする自分も。ごめんなさい…最低だ私…」
ぽた、と涙が落ちる。
「詩遠、こっち向いて」
涙で潤んだ瞳のまま、隼人を見る。
「今までずっと罪悪感に押し潰されそうだったんだよな?お前の秘密は簡単には打ち明けられなくて、誰にも言えず、辛かったんだよな?」
「隼人…」
「そいつのせいでお前が幸せを望めない理由も分かった。そのピアスに込められた約束が呪いだって事もな」
「……………」
「安心しろ、俺が必ず呪いを解いてやる」
「え?」
「そのピアスを外させて、俺がお前を幸せにしてやるって言ってんの」
「!」
プロポーズのようにも聞こえて、私は照れてしまう。隼人は目尻に浮かぶ涙を優しく拭い、私に微笑みかける。
「話してくれてありがとな」
「…信じてくれるの?今の話だって…簡単には受け入れられないような内容ばかりなのに…嘘だって、思わないの…?」
「嘘なの?」
「う、嘘じゃないよ!」
「なら信じる」
ハッキリと言い切られた。
「あんたが違う世界の人間だろうが関係ない。俺はこの世界のあんたを好きになったんだから」
「隼人…」
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