第38章 イニシャル-ウソツキ-
「女学生の頃の眼鏡のあんたに一目惚れをして、フクロウであんたと再会して、あんたに好きって言ってもらえて…俺はそれだけですごく幸せなんだ」
そう言った彼はとても嬉しそうに笑んだ。
「これでもっとお前のこと好きになったよ」
こんなに一途で優しい人がいるだろうか。私の秘密を話しても嫌わずにいてくれた。むしろ優し過ぎるくらいだ。
「隼人…有難う」
彼の優しさに何度救われただろう。
「でも立花を突き落とした奴は許さないけどな。本当に犯人に心当たりないの?」
「うん…顔までは見えなかった。犯人が落ちていく私を見て笑ってたのは覚えてるんだけど…」
「そんな奴のことはもう忘れろ。覚えてても良い事なんて何もないからな」
隼人は顔も名前も知らない犯人に対して嫌悪の眼差しを向ける。
「…長谷って奴は何で稀モノなんか持ってたんだろうな。だってお前のいた世界には存在しないんだろ?」
「うん、それは私も気になってる。稀モノが存在しないはずの世界で長谷君は稀モノを持ってた。理由は聞いても教えてくれない」
ただ、一つだけ思い当たる節がある
「あのね、もしかしたら…」
私はずっと心の中で引っ掛かっている違和感を隼人に話す。
「それ…本当なのか?」
話の内容を聞いた隼人は驚いた顔を浮かべる。
「分からない…今はまだ私の予想なの。でも、可能性はゼロじゃないと思う」
「…なるほどな」
「……………」
「あいつのせいでお前が悲しい顔してんの、ちょっと悔しいなぁ」
「何言ってるの?」
「お前の色んな表情を引き出す役目は俺だけだと思ってるのに」
「…もう、からかわないで」
「本気だって」
隼人が私を抱きしめた。
「大丈夫、何があっても絶対に俺が守るから。だからもう…俺のいないところで一人で泣くなよ。こうやって抱きしめてやれないだろ?」
まるで腫れ物を扱うような手つきで、弱った私の心を慰めるかのように、彼の腕の中はとても心地良かった。
「…分かった?」
「はい…」
その返事に対して、隼人は優しく笑み、私の瞼の上に触れるだけの口付けを落とした。
ごめんね隼人…
私達の秘密だけは
どうしても話せない…
next…