第38章 イニシャル-ウソツキ-
「(逃げるのは…もうやめる。知らないフリは終わり。ちゃんと自分の罪と向き合わないと。)」
私と長谷君の止まった時間を
彼女の死をキッカケに壊れた日常を
ゆっくりと…動かすために───……
✤ ✤ ✤
ティーセットを温室に持ち込んで、長椅子に腰掛け、天井から見える星を眺める。
「…ごめんね、貴女を一人にして」
不安で手帳に挟んでいた写真を持ってきた。
「助けてあげられなかった…」
私が稀モノを見つけなければ
私が瑞希を一人にさせなければ
彼女は死なずに済んだのに
「長谷君がおかしくなることだって…」
全部…私のせいだ───。
「ごめんなさい…」
罪悪感と後悔で心が押し潰されそうになる。
「自分で自分を呪いたいよ…」
写真には学生の頃の私と長谷君と瑞希が仲睦まじく写っている。
「っ…………」
それを見ていると泣きたい気持ちが込み上げ、目尻に涙を浮かべた。
「(長谷君と話をして、彼がちゃんと私の言葉を聞き入れてくれるかは分からない。また…『知らなくていい』と拒絶されるかもしれない。)」
でも…"知りたい"の
知ることはそんなに悪いこと?
私は…君を救いたいんだよ────。
"それの何がいけないんだろう"と思いながら紅茶を一口飲み、ソーサーに戻す。
「…隼人に嫌われちゃったな」
でも…言えないよ
「私が違う世界から来たことなんて…」
顔を俯かせ、辛そうに顔をしかめる。
「──違う…世界…?」
「っ!!?」
自分以外の声に驚いて、伏せていた顔を上げる。慌てて入口の方を見ると、困惑顔の隼人が立っていて、私は緊張感に包まれた。
「は、隼人…っ」
「今の話、どういうことだ?」
「え、何…何の話?」
「違う世界から来たとか、言ってたよな?」
「い、言ってないよ」
まずい、今の話聞かれてた?
「(どうしよう…)」
私は膝の上で掌をギュッと握り締める。
「さっきのこと、謝りたくて探してたんだ。部屋にいなかったから此処だと思ってさ」
「!」
歩み寄る彼の表情は悲しそうで、心臓がキュッと切なく締め付けられた。
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