第38章 イニシャル-ウソツキ-
「離して、お願いだから」
「離さないって言ってんだろ」
どこか苛立つように言われ、私は思わずびくりと体を恐縮させる。
「…隼人、立花は友達だと言っている。そんな怖い顔で問い詰めたら、彼女が可哀想だ」
「っ…………」
「………………」
朱鷺宮さんに言われ、隼人は私の腕を離す。彼に掴まれた腕が痛かった。
✤ ✤ ✤
説得をツグミちゃんに任せて、私は気分が悪くなったからと先に部屋で休ませてもらうことにした。
隠していた携帯を出して、長谷君に電話を掛ける。数回のコールの後、彼は出た。
《お前から掛けてくるとは珍しいな。》
「…長谷君、教えて」
《何をだ?》
「帝都大学の百舌山教授って知ってる?」
《ああ、もちろん。帝都大学病院の精神科医で、帝都大学では精神医学を専門としている教授だろう?》
「随分詳しいんだね」
《あの教授には悪い噂が耐えないと耳にしたんだ。なんでも…人体実験をしている、とか。》
「その百舌山教授が殺されたのは知ってる?」
《街を歩いていたら学生達がそんな事を言っていたのを聞いたよ。可哀想に…まぁ、自業自得だな。》
「犯人は隠さんらしいの」
《今世間を賑わせている『炎の怪人』か…。彼ならあり得るだろうな。》
「私は違うと思ってる」
《…その根拠は?》
「根拠は…分からないけど…」
《話にならないな。》
長谷君の呆れたような溜息が電話越しから聞こえた。
「…ごめん長谷君、隼人達に関係を知られちゃった」
《意外と早かったな。》
「でもちゃんと上手く誤魔化したよ。長谷君とは友達でこの件には一切関わってないって」
《…けどそれで納得する奴はいないだろうな。特に…尾崎隼人は僕達の関係を疑っている。》
「……………」
《潮時が近いのかもしれない。》
「長谷君、一度会って話そう。私達には話し合いが必要だよ。私も逃げないから長谷君も逃げないで」
《…わかった。時間を作る。》
「!」
《詳細はまた改めて連絡する。》
「うん…有難う、長谷君!」
《じゃあ、また……───。》
プツッと通話が切れ、携帯を鞄に戻す。
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