第38章 イニシャル-ウソツキ-
隼人に連れ出され、地下を歩く。
「考えてみたら立花と二人でここ歩くの初めてだな」
「…そう言えば」
「静かで薄暗くて、こんな時じゃなかったら襲うのに」
「………………」
冗談めかしていても、今からまた『良くないこと』を突きつけられるのは予想が出来た。
「…何かあるんだね」
「………………」
「百舌山さんは…やっぱり何か関係があるの?」
「恐らく」
「……そう」
「あのさ…立花」
「何?」
「お前、俺に…」
「?」
「……いや、何でもない」
歯切れが悪そうに言葉を言い濁し、どこか様子のおかしい隼人に私を首を傾げた。
✤ ✤ ✤
「連れて来ました」
「…………っ」
入った瞬間から、私はただよらぬ空気を察知した。いつもは他の研究室員達が黙々と机に向かっているのに、今日はがらんとしている。
広い部屋に、朱鷺宮さんと猿子さんとツグミちゃんだけが立っている。
「わざわざこっちまで来てもらうことになってごめんね。……他のみんなには申し訳ないんだけど、君達以外にはどうしても聞かれたくないし、気付かれたくなかったんだ」
「また……───何か悪いことが?」
朱鷺宮さんが憐憫に満ちた瞳でツグミちゃんを見た。
「…朱鷺宮さん?」
「久世。私は君にこれからとても残酷なことを口にしなければならない」
「…残酷…ですか」
「もしかしたら…君ももう薄々感じているかも知れないが。隠さんに……───百舌山教授殺害の容疑が掛かっている」
「………!」
「(やっぱり…隠さんなの…)」
「私と隼人は彼の自宅に行った。そこに…日記があってね。正確には細かな備忘録という感じかな」
「……………」
「何をした、何処に行った、誰と会った…そういうものが細かく記されていて…その一番最後にこう書かれていた。『17:00 Y.N』と」
「(隠…由鷹…)」
私は悲しげに眼を伏せる。
「そして…こうも書いてあった。『彼はアウラが視えるらしい。もし手に入れられれば研究が捗る』」
「……え……」
「私達が知っている限り、この条件に当てはまるのは隠さんしかいない。そして最後にもう一つ」
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