第37章 濡れそぼる雨-アヤマチ-
「栞と尾崎君は教授の自宅捜査の同行を許可されたようで、今頃向かってるはずだ。君達の今日の行動に変わりはない。……よろしく頼むよ」
私達はそれぞれ地区の担当の巡回に向かった。
「なぁ聞いたかよ!
百舌山が死んだらしいぜ!」
「!?」
目の前を通り過ぎる学生らしき青年達の声に、躯が竦んだ。
「聞いた聞いた!今朝、総務部が大騒ぎでさ!
お陰で今日、あいつの授業全部休講だぜ!」
「あいつさー絶対に殺されたんだよ!
誰かの恨みを買ったんだって!」
「……………」
「……詩遠」
「累!?」
気付くと、いつの間にか累が側に立っていた。
「今の彼等の声、聞こえてたよね?百舌山教授が死亡したらしいんだけど…何か知ってることはない。焼死体で発見されたって聞いた。まさか彼が、次の犠牲者?」
「…ごめんなさい。私もまだ何も」
「……………」
「隠してるわけではないの。
今丁度、調べているところらしくて…」
「そうなんだ」
「累は…どう思う?『炎の怪人』と関係あると思う?」
「どうなんだろうね。ただ……───この前も言っただろう?あの人は悪い噂がある。僕としては…ただ『偶然』巻き込まれた、とは思えない」
「……………」
「何か分かったら是非教えて。
それじゃまた撒いてくるよ」
✤ ✤ ✤
午後8時───仕事を終えた私は、小さな図書館に来ていた。国立図書館ほどではない広さだが、二階まである棚には沢山の本が所狭しと並んでいる。
「(百舌山の件もあの人が…?)」
不安が拭いきれず、胸の前で掌を握る。
「あれ、あの人…」
黒髪ロングの女性が、椅子に座り本を読んでいた。この間買った小説の表紙に載っていた著者の顔を思い出す。
「(あ──!!)」
私は読書中の彼女に歩み寄った。
「すみません」
「!」
声を掛けると、その人は読んでいた本から目を離し、私を不思議そうに見た。
「ミステリー作家の鶴科琴音先生ですよね?」
「そうだけど…もしかしてファンの子かしら」
鶴科先生は落ち着いた仕草で私に笑いかける。長い睫毛と艶やかに引かれた紅が印象的だった。
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