第37章 濡れそぼる雨-アヤマチ-
「(ああ…やっぱり本降りに…)」
途中で降り出した雨はバスを降りる頃には激しさを増し、私はアパートに向かってひた走る。
あれ、向こうからも誰か……
「隼人!」
「あ!お前そんなずぶ濡れになって!ちゃんと傘差せよ!」
「隼人こそ!仕方なかったんだよ、いきなり降ってきたし」
「そうなんだよなぁ」
✤ ✤ ✤
「おや尾崎さん、立花さん、お帰りなさい!降られちゃいましたねー!今日は何だか冷えるし、お風呂早めに沸かしておきましたよ!あったまって下さい」
「有難うございます」
「どうも!」
「(油に濡れた次は、今度は雨…せっかくの制服の布が傷まないといいけど…)」
私は濡らさずに買ってきた本をホールに一度置いて、後で取りに来ようと思った。
「あれ、何処に行くの」
「この格好じゃ階段まで濡らしてしまいそうで。このまま一度お風呂に行こうかなって」
「…じゃあ、俺もそうしようかな」
そうして私達は並んでホールを横切り、それぞれの浴室に向かう。
「じゃあ隼人、今日はお疲れ様でした。風邪をひかないように、ちゃんと温まってね」
「…お疲れ」
私が微笑んで、女子浴室の扉を閉めようとしたその時だった。
「あ……!?」
扉を押し退けて自分も一緒に中に入った彼は、私を壁に押さえつけ、口付けを交わす。
「……んっ……」
「…は、やと…っ?」
「…いきなりでごめん。でも濡れたお前を見てたら…昨夜を思い出して触れたくなった」
「………!」
再び唇が重なり、冷え切った躯がそこだけ甘く疼いた。
「こんな…大変な時に俺も相当ろくでなしだなって思うけど…今日はずっとお前がちらついて…耳元で、またあの甘い声が聞こえるような気がして…。…今日は巡回が独りで良かった。もしずっと一緒にいたら…襲ってた」
薄暗いその場所に私達の声と息遣いだけが響いて羞恥にまた体温が上がる。
《あー!待って下さい、滉!今日のお風呂掃除まだなんですよ!》
「!?」
不意に扉の向こうから聞こえた声に、私は凍りついた。けれど隼人は微かな笑みを洩らした後、先刻よりも激しく唇を重ねてくる。
「……んん……っ」
「……っ……」
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