第37章 濡れそぼる雨-アヤマチ-
そして空は夕暮れ色に染まり───……
「ねぇねぇ、あの号外の『炎の怪人』ってのはまだ捕まらないのかねぇ」
「警察もしっかりして欲しいよなぁ」
配っている私とツグミちゃんと柾さんは無関係だと思っているのか、彼等は言葉を交わしながら通り過ぎてゆく。
「本当に迷惑な話だよ、無差別なんてねぇ。早く捕まって刑務所にぶち込まれればいいのさ」
「………………」
葦切さんの事件があった日以来、朱鷺宮さん達が口を噤んでいるのは気になっていた。
「(…このまま何も起きないなんてことは…)」
私は手の中の号外を凝視めた。
✤ ✤ ✤
「こんばんは」
「いらっしゃい…あら?」
号外を配り終え、二人と別れた後、新しい本を買うために書店に立ち寄った。
「今日は個人的に本を買いに来ました」
「そうかい。ならゆっくりしていっておくれ。仕事じゃないなら大歓迎さ」
にこやかな笑みを湛え、店主は店の奥へと消えて行った。私は棚に並んだ本を見て回る。
「(…知らない先生ばかり。)」
芦屋しのぶ先生、平塚花鶏先生───紫鶴さんの名前が記された本が目立つ棚にズラリと並べられている。
「(やっぱり人気なんだ。)」
恋愛小説よりミステリー小説に興味がある私は店内のど真ん中に作られたコーナーを発見し、足を止めた。
「『天才アリスは容疑者Xの夢を視る』…コレはまだ読んだことないかも」
私は気になって棚からその本を手に取ると会計へと向かう。
「この先生すごく人気なんだよ。新刊が発売されるとその日に完売しちゃうんだ」
「そんなに有名な作家なんですね」
「『鶴科琴音』と言って、ミステリー小説を書かせると天下一品なんだ。まるでその事件が本当に起こったような物語でね、読む側はいつもハラハラするんだよ」
「ミステリー作家ですか…」
「若くして賞を獲った天才作家だよ。何でも元は新聞記者をしていたとかで」
「新聞記者…!」
「その前は確か…どこかのお偉いさんの秘書を勤めていたって聞いたなぁ」
「(すごい経歴の持ち主!)」
「あんたもきっとファンになるよ」
「はい、読むのが楽しみです!」
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