第37章 濡れそぼる雨-アヤマチ-
「おっはよう!今日も一日頑張っていきましょう!」
ツグミちゃんと共に待ち合わせ場所に赴くと、もう柾さんは来ていた。
「おはよう、小瑠璃ちゃん」
「おはようございます、あの葦切さ…」
「さぁ今日もがんがん撒くわよー!」
「……………」
明らかに話を遮り、彼女にしては乱暴な仕草で号外を配り始める。私とツグミちゃんは"まさか…"と顔を見合わせた。
迂闊に問えなかった。
「(意識は取り戻した…んだよね?)」
柾さんはひたすら手を動かしている。まるで、何か考えることを拒むように。
「(…まさか…失……)」
私が無言になっていると
不意に彼女が私達を見た。
「…小瑠璃ちゃん?」
「…気になる?わよね?」
私達はこくこくと頷いた。
「昨夜『お嫁さんにして下さい』って言ったの。でも…断られた」
「「え!?」」
ツグミちゃんがビラを落とす。
「あ、あの……」
「ツグミちゃんビラが…!」
「そこで貴女が動揺して落とさなくても」
呆然としている私達を尻目に、彼女は手早く紙を拾い集めツグミちゃんに押しつけた。
「『時期が来たら俺からプロポーズする』とか言って」
「「!!??」」
今度は私が紙を落としそうになった。
「ちょっとそれはあんまりだと思わない?腹立たしいから首根っこを掴んで問い質そうかと思ったの。でも一応意識を取り戻したばかりだし、全身包帯ぐるぐる巻きの怪我人だし勘弁してあげることにしたわ」
「…それは」
「貴女の戦果報告はいいわ」
「え!」
「聞かなくても分かるから」
「っ!」
「ああ、私ったら本当に見る目がない。仕事馬鹿の上に意外に男の沽券を気にする古風な男だった。薄々そんな予感はしていたけど」
「………………」
「……───仕方ないから、待つわ。その古風な考えを私が鍛え直さないと」
私達は笑い合い、彼女に向かって言った。
「「おめでとう……────!!」」
ツグミちゃんは柾さんを思い切り抱きしめた。今までで一番照れ臭そうで嬉しそうな彼女を。
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