第36章 ご褒美の味-シアワセ-
「……っん……」
「…ああ、やっとご褒美にありついた」
「……あっ」
「…最高に、美味しいよ。甘くて…柔らかくて…熱くて…いい匂いがする…。ずっと…これだけ食べてたい」
「そういうこと…言わないで…」
「俺は正直者なんだって。それはお前だってうんざりするくらい知ってるだろ?」
「…知ってる、けど…」
「…傷も、本当に目立たないみたいで良かった。まぁ俺はでっかい傷があっても気にしないけど」
そう言って彼は私の傷跡を爪の先でそっとなぞる。
「んっ」
「撫でられただけで感じてんの?」
「っ…………」
隼人は愛おしそうに目を細めて笑う。
「俺はお前の全部を愛すよ。この首の跡も脇腹の傷も…まるごと全部愛す」
「…隼人にはそういう傷はないの?」
「それって俺の身体の隅々まで見たいって意味?」
「ち、ちが…!」
「いいよ、見ても。お前が直接、俺の身体に触れて、傷があるか隅々まで確かめて」
「は、隼人…!」
「真っ赤…ホント可愛い」
「…んっ…あっ、んんっ…」
「でもそういう無防備な発言は俺だけにしておけよ?誤解されるから」
私は口付けの隙間で小さく頷いた。
「…もう一回、俺のこと好きって言って」
「……え」
「一回でも、十回でもいいけど、とにかくもう一度聞きたい」
「…す、好きです」
「出来ればもう一回」
「…好きです」
「俺もだよ」
その一言に、また私の顔がかっと熱くなる。そして更に今更恥ずかしいのは───自分からあんな告白をしてしまったことだ。
「…あのベンチにさ、眼鏡のあんたがいなくなった時に後悔したんだよ。ああやっぱり声を掛けておけば良かったなぁって」
「亜米利加に…行くからでしょう?」
「それもあったけど…妹のことの方が大きいかな」
「………………」
「あいつの事件が切っ掛けでフクロウに入ったのに、まだ何も手掛かりはなくて…それであんたまで手に入れようなんて…虫が良過ぎるかなって。だから…俺は今、本当に幸せだよ」
「………………」
「憧れの『灰被り姫』に……───好きって言ってもらえるなんて。俺があんたの硝子の靴を履かせた王子様になった」
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