第36章 ご褒美の味-シアワセ-
もう自分の気持ちを押し殺すのはやめよう。後悔ばかりの人生でも、私にだって幸せになる権利はある。おじい様が言ったように。
「………っ!」
一番最初に感じたのは、痛みだった。
僅かな身動きさえ許さないようにきつくきつく抱き竦められ、腕と背中が軋んだ。
次に気付いた。
唇が触れ合っていることを。
「はや、と…っ」
「…ん…ぅ…っ」
「んん…っ」
身動きだけではなく
呼吸も許されないようだった。
彼の唇が何度も荒っぽく押しつけられ、私は全く息がつけない。
「…っぅ、けほっ…」
遂に躯が空気を求めて喘いだ瞬間、ほんの僅か腕が緩む。
「…お前、馬鹿だろ」
「ば、馬鹿って…っ」
「…杙梛さんの店で焦った自覚はあったし、今度は逃さないようにって…今日まで必死に紳士的に振舞ってきたのに…。いきなり…そんな顔でそんなこと言われたらもう…抑えきれないよ」
「…ご、ごめんなさ、い…っ」
私がどうにか息を整えようとしたその時、また唇を塞がれる。
「………っ」
「…っぅ…」
「もう謝っても…遅い…っ」
彼の唇は、熱く乾いていた。そしてシャツ越しの彼の体温もまた熱く、まるで私を蕩かすためにあるようだった。
「…詩遠」
「……っ!?」
いつもと違う声の響きに
私は思わず目を閉じた。
「……───脇腹の傷跡、俺に見せて?」
「……え?」
「本当に消えてるのかどうか…確かめさせてよ」
「何…言ってるの?傷なんてもう本当に…」
「それとも…俺に脱がされたい?」
「っ!?」
次の瞬間、やっと彼の言葉の意味を理解し、私の顔は茹で上がったように火照る。
「…分かった?ご褒美ちょうだいって…言ってんの……ん……」
「…んんっ…」
彼の呼吸を真似ることを覚え
私はやっとむせずに済むようになった。
けれど何度も何度も途切れなく口付けられ、移し込まれる熱に今度は頭がぼうっとし始める。
「…見るよ?」
彼が低く、甘く囁いたその時───。
『ただ亜米利加から戻ってきた時に『向こうの女性は胸が大きかった』みたいなこと言ってたから!』
『っていうか男はみんな好きだろ!!胸が!!』
.