第36章 ご褒美の味-シアワセ-
「そっか、なら良かった!まぁこれで俺も一安心だよ、そう簡単に死ぬようなヤワな人じゃないとは思ってたけどさ」
「……………」
「きっとすぐに退院してくるよ、それで俺達が止めるのも聞かずにまたカメラ持っ……───」
「……………」
「…立花?」
涙ぐんだままじっと凝視めたせいで、遂に彼は黙り込んだ。
「………………」
困り果てた顔で、隼人は私を眺める。
私はそんな彼の顔や、髪や、肩を盗み見るように視線を彷徨わせる。
「(…私が、失いたくないのは…)」
「どうして泣きそうなの」
「…隼人は、絶対に死んだりしないで」
「は!?」
「絶対に絶対に…死んだりしないで」
「ば、ばーか!いきなり何を言い出すかと思えば!大丈夫だよ、俺、悪運強いし!絶対に最後までしぶとく生き残る自信あるからさ!」
「……本当?」
問い返す声が震えてしまって、自分で情けない。
「……え、あの……」
大事な人達は沢山いる。父や母、瑞稀や長谷君や、クロエ。朱鷺宮さんや、ここで出会ったみんな。
ただその中で───たった一つ、違った煌めきを放つものが私を惹きつけて離さない。
「…いなくならないで」
『君は『比翼の鳥』という言葉を聞いたことがあるかな』
あの話をした時、全然実感などなかった。彼等が私に気を遣っていることは分かったけれど、誰かを好きになるような余裕など自分にはない、と。
けれど────気付いてしまった。
そんなものは、つまらない言い訳なのだ。
『駄目なの?まだ貴女の中の『好き』が足らないの?』
死ぬ程後悔するくらいなら
死ぬ程勇気を出してみせる。
今まで生きてきた中で
一番の勇気を出してみせる。
「いなく…ならないで」
『この世界に幸せになってはいけない人間などおらん。人は誰かに愛され、誰かを愛する為に生まれてくる』
『いつかお前が自分の幸せを望み、心の底から誰かを愛する日が来ることを願っておるよ』
『お前の"幸せになるのが怖い"という不安を消してくれる、そんな男と巡り会える事をな』
「……───私の前から、消えないで」
「おま……何……言っ……」
「貴方が好きです」
「………な」
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