第36章 ご褒美の味-シアワセ-
「この間、おにぎりに添えてあったのを食べた時も思ったけど、この糠漬け良い味してるわね」
その日は、柾さんの希望でホールで朝食を取ることにした。
「小瑠璃ちゃんは堂島先生に習わなかった?」
「習った気もする…けど身についてないわ。そういうところが貴女は本当に真面目よね」
「真面目というか…先生が漬けたものが美味しかったから。本当にそれだけ」
「そう」
柾さんは笑んで、お味噌汁を啜る。
「(…あの夢、久々に視たな。)」
「立花さんは冷え性なの?」
「え?」
「ストール暑くない?」
私の首に巻いてあるストールを見て柾さんは小首を傾げる。あのスカーフは油の臭いが強烈過ぎて使い物にならなくて捨てた。
「首が冷えるのでストールは欠かせないんです。ちなみに冷感素材で出来ているので思ったほど暑くはないんですよ」
「そうなの」
曖昧に笑って誤魔化した。
「(また新しいの探さないと…)」
私が小さな溜息を零したその時。
「あ、いたいた!おはよう!」
「おは……」
言い掛けて、私ははっと目の前の彼女達に気付く。
「おはようございます。ちゃんとご挨拶するのは初めてですよね、以前にもお会いしたのに。改めまして、私は柾小瑠璃と言います」
「どうも、尾崎隼人です。そうですね、確か以前に久世と一緒の時に。でも…元気そうで良かった」
「先輩が厳しいもので。意識を取り戻した時に怒鳴られたくないんです」
「はは!女にも容赦ないんですね!」
「………………」
私は矛先が向かないように内心で祈りつつ、俯いていた。
「そうそう、柾さんに用事があって。ほらあの号外、書店にも置いてもらおうかなって」
「お店!確かにそれはいいですね!」
「ですよね?車借りて取りに行きますんで沢山用意しておいて下さい」
「是非!」
「じゃあ、俺はこれで。お互い頑張りましょう」
いつものような爽快な笑顔で彼は去って行き────。
「何、その顔?からかわれると思った?」
「い、いえ!そんなことは…」
「改めて近くで見るとやっぱり格好いいわねぇ。あれなら確かに女優さんも虜になりそう」
「…そ、そうですか」
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