第35章 呪縛の炎-ケイコク-
「夜道を歩いていたらストーカーに襲われてね…人気のないビルに連れ込まれたの。抵抗したら犯人に首を絞められた」
「………………」
「男性恐怖症になったのもそのせい。触られるとその時の事を思い出して怖いの。あれから時間は経ってるのに…まだ消えてくれない」
あの男に触れられた感触が消えなくて、気持ち悪さで吐きそうになる。
「汚いんだ…私の体。だから隼人も…もう私に触れない方が───」
「っ…………!!」
涙が溢れそうになった時、隼人に思いきり抱き締められ、私の体が硬直する。
「は、隼人…離し…」
「…触れるなとか言うなよ」
「え……?」
「ごめん…軽率だった。簡単に見せろなんて…あんたの一番嫌な記憶を思い出させて…本当にごめん」
「…こんな私の過去を知っても、隼人は嫌いにならないんだね」
「なるはずないだろ。こんなに好きなのに。
あんたのことが好きで好きで堪らないのに」
「!」
「俺がお前を嫌うなんて絶対にない。天地神明に掛けて誓う。首の跡もひっくるめて好きだ」
「っ……………」
「こんなに愛しいと思える女は、お前だけだよ。俺をこんなに夢中にさせるのも、好きにさせるのも、全部お前だけなんだ」
体を離した隼人が優しい表情で笑う。
「俺にとって立花は、誰よりも特別で、世界で一番大事な女だよ」
「隼人…」
「だからお前にそんな跡があっても、俺はそれごと全部愛す自信がある」
迷う事なく、ハッキリそう告げた隼人の言葉に驚いて目を見開いた。
「例え顔に傷があったって、俺はお前を好きでいたよ。嫌いになるって選択肢はそもそも最初から俺の中にはない」
「(この人は…優しすぎる。)」
嬉しい気持ちが込み上げ、涙を滲ませた。
「長年の一目惚れ、甘くみるなよ?」
「(そうだった。隼人はこういう人だ。私の過去を知ったからって突き放したりしない。)」
そう思うと、何故か笑いが洩れた。
「ふっ…ふふ、」
「お、やっと笑った」
やけに自信たっぷりに宣言するものだから、彼は相当な自信家だと思う。
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