第35章 呪縛の炎-ケイコク-
「これは私のエゴかも知れない。長谷君は言った。『誰も傷付かない世界など存在しない』って。…それでもいい。私は…誰かが傷付く前に救いたい」
《…やハり貴女は優シイです。》
「きっと犯人は愉しくてやってるんだと思う。そしてその犯人が…彼女達と相容れない存在なのは間違いない」
《…罪を犯せば必ず人は罰ヲ受けまス。》
「そうだね…」
《きっト叶斗様も。》
「え?」
《コチラの話です。…そろそろ叶斗様ガ帰って来る時間でス。》
「電話、付き合ってくれて有難う」
《貴女の不安が少しデモ消えたのなら良かったデス。》
《デハまた────……》
「うん、またね」
クロエとの通話を終え、携帯を鞄にしまう。
「温室で紅茶でも飲もうかな…」
ティーセットを用意して、部屋を出る時に気付く。
「(こんな時間だし誰も来ないよね。それにスカーフは駄目になっちゃったし。別に何も巻いて行かなくてもいっか。)」
✤ ✤ ✤
長椅子に腰掛け、空を見上げる。星々が小さな輝きを放ち、とても美しかった。
「私は…どうしたいんだろう」
カップの取っ手を持ち、呟く。
「……………」
一口飲むとアッサムのコクのある甘みと濃厚な味わいが広がった。
「長谷君は何を隠してるの…」
『お前は何も知らなくていい』
「どうして…」
「やっぱりここにいた」
「!?」
悲しみに耽っていると隼人が立っていた。驚いた私はカップを落としそうになる。
「立花、話があっ…」
「だ、だめ!」
「!?」
近付いてしまえば首の跡がバレる。咄嗟の言葉に驚いた隼人は足を止めた。
「今は…私に近付かないで」
「どうした?何かあった?」
「な、何もない…」
「何もないのに俺が近付くのは駄目?」
「隼人が駄目なんじゃなくて…」
「俺、何かした?」
隼人の悲しそうな声が胸に突き刺さる。
「ち、違う!隼人は何もしてない!何もしてないんだけど…近付かれるのはちょっと…」
襟元をぎゅっと引き寄せ、首の跡を隠す。
「近付かないから理由だけ教えて」
「……………」
教えてと言われても困る。
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